フォーエバー・フレンズ -96ページ目

4、兄貴の心(2)

次の日、直哉は早速フォーム改造に取り組んだ。駅伝部員とともにトラック内を全力で走りながら、いろいろと試していた。

しかし、どうもしっくり来ない。足を高く上げない事で、後遺症の痛みは和らいだが、今度は太ももが張るのである。体力の消耗度も激しい。

「だめだこれは」そんな事を言って立ち止まると、ラグビー部の武がやってきた。

「武・・・」

すると武は、直哉の横を通り過ぎ、尾崎キャプテンのところへと歩いていった。そして「入部させてください」と元気な声で言う。

「はあ???」

この言葉に、全員が驚いた。ラグビー部のマネージャーの武。一体何が起こったというのだろうか?

「実は・・・特待生待遇を打ち切られそうなんです」

部室に集まった駅伝部員を前に、武は寂しげにそんな事を言う。

武はこの大学に、特待生と入部した為、授業料がタダだったのだ。しかし先程部長に呼ばれ、今年度内の特待制度打ち切りを通達されてしまったのだ。まるでプロ野球の外国人選手並みの扱いである。

そして武はさらに続ける。

「特待制度を続けたければ、知名度が高い大会に出るよう言われました。箱根駅伝に出れば、なんとかタダで授業が受けられるかと・・・お願いします。入部させてください。走る事なら自信があります」

なんとも動機が不純だが、別に強豪チームでもない陸上部。断る理由もなかった。

そしてこの日から武は、ラグビー部と駅伝部の両方を兼ねる事となった。

しかし走らせてみると、これが意外に早いのである。1500mを4分台で走り、100mを11秒台で走る能力。まさにラグビー仕込みである。瞬発力も十分にある。

尾崎は彼を見たとき瞬時に思った。

「こいつ。ひょっとして山登りのスペシャリストになれるかも・・・」

箱根駅伝はトラック競技と違い、箱根の山を登る最難関がある。ここで毎年大差が付けられる訳であり、山を制する者が箱根を制するとも言われている。

小野寺武。経済学部の2回生。

彼は駅伝部員となり、ともに箱根を目指す事となった。そして武はその日から、山対策としてひたすら坂道を登る特訓を始めたのだ。

「ゆりなちゃん、お疲れ」

「お疲れ様です」

AVの撮影現場を後にした詩織は、マネージャーに五反田の自宅まで車で送ってもらっていた。

「ゆりなちゃん」

「何ですか?」

「ゆりなちゃんてなんかこう・・・硬いよね」

「そうですか?」

「うん。なんかこの業界で働いている人っぽくない。まあ、だから売れるんだろうけど」

詩織・・・いやゆりなは美人なのだが、それだけでは無かった。なんとなく素人っぽいのである。これが売れる原動力となっていたのだ。

自分が音大生である事は、プロダクションにも内緒にしていた。しかし人間とは、どんな環境にいても、素の自分というものが所々に出るのである。

なんとか学費を稼ごうと思って始めたこの仕事。しかし人生とは理不尽なものであり、

音大の詩織の所々にでる素が売れる要因となってしまっていた。

一度ピアノコンクールの会場で「あの子美月ゆりなに似てるよな」とヒソヒソ話を聞いた事があるが、大体その後に「まさかピアノコンクールに出る訳ないよな」と言う。

別にやましい事をしているつもりは無い。しかしこうやって自分を隠している事が、何かコソコソしているようで嫌だった。

自宅マンションの前で車から降ろされると、詩織は家には帰らず、そのまま近所の映画館へと向かった。

そして映画館にたどりつくと、入り口で直哉が携帯のIモードをポチポチしながら待っていた。

「ナオ!待った?」

「今来たとこ。今日は授業だったの?」

「うんそうよ」

そして二人はそのまま映画を見た。

スクリーンには、CGの巨大竜が飛び交う。CGの小人が走り回る。近頃はコンピューターグラフィックの性能が向上し、いとも簡単に夢の世界が作れるようになった。往年の映画ファンからすれば、少しもの足りないかもしれないが、若き二人にとってはそんな事どうでもいいのかもしれない。