4、兄貴の心(4)
恵一が部屋に帰ると、なんと今日も直哉が来ていた。直哉はまどかと話に来ているのだろうが、恵一にしてみれば、直哉のそう言ったところが、全く理解出来ない。
一番嫌いな兄の家に、何故こんなに頻繁に来られるのか?自分なら嫌いな人間の家など絶対に訪問しない。
「また来たのか」
いつものように無愛想な恵一の態度を見ると、直哉はなんとなく不機嫌になる。
「すぐ帰るよ」
「勝手にしろ」
するとまどかは、いつものように「本当にひねくれ者だから」と言う。そしてそれに便乗するように玲奈も「パパ、ひねくれ者」。
そして恵一が冷蔵庫を開けると、いつも自分が飲むために冷やしておいた缶ビールが全て無くなっていた。
「まどか。ビールが無いぞ」
「あ、直哉君と私で飲んだの。飲みたかったらコンビニで買ってきて」
「直哉、お前未成年だろ」
恵一に怒られると直哉は「いいよ。ビールぐらい買ってきてやるよ」と言って、買い物にいく準備を始めた。
「いい。自分で買いに行く」恵一はそう言って、再度ジャケットを羽織った。
「いいよ。俺が買いに行くよ」
「いい。自分で買う」
そんな事を言い合っていると、まどかは「あ、恵ちゃん、お願いがあるの」と言ってきた。
「なんだよ」
「生理用品買ってきて」
「・・・」
結局、直哉と恵一は一緒に出掛ける事となってしまった。直哉はコンビニでビールを買い、恵一はちかくのドラッグストアで生理用品。
それぞれのミッションを持った二人は、夜の目黒の街を歩いていた。
こうやって二人肩を並べて歩くのは何年振りであろうか。
「兄貴って全然まどかさんに頭上がらないよな。生理用品買いに行かされるんだもんな」
「うるさい」
「偉そうにしても所詮かかあ天下じゃん」
「うるさい」
そしてコンビニとドラッグストアで買い物を済ませ、二人で目黒の街を歩いていると、恵一はふと口を開いた。
「直哉。この間連れてきた女の子は、お前の友達なのか?」
すると直哉は思わず黙り込んでしまった。確かに恵一の言う通り詩織とは友達である。
でも、本当はそれ以上の関係になりたいと心の何処かで思っていた。でも、結局自分と詩織は吊りあわないという言葉に逃げていた。
そして「そうだよ」と言って、寂しげに下を向いた。
「それじゃ、片思いか?」
「違うよ。そんなんじゃないよ」
「そうか・・・」
「何でそんな事聞くんだよ」
「いや・・・友達は大切にするんだぞ」
「兄貴に言われなくても分かっているよ」
「ああ。それと・・・医者の俺が見るには、あの子は顔色が少し悪かった」
「そうかなあ???」
「ああ悪い。だから体をよくいたわってやれ」
「わかった」
「長く歩かせてしまったら、何処かに座らせて休ませてあげろ」
「わかってるよ」
「これから暑くなるから飲み物はスポーツドリンクを飲ませてあげろ。それか果汁100%のジュース。そう、その場でミキサーしてくれるジュースなんかいい。トマトジュースなら尚いい。炭酸系は止めたほうがいい」
「わかってるって」
「それと彼女の前でタバコを吸うな」
「タバコは止めたよ」
「お酒もなるべく控えろ。飲むなら紹興酒か日本酒一杯ぐらいにしておけ」
「はいはい」
「それと・・・」
「何だよ?」
「よく相手の気持ちになって話してあげろ。彼女のいろんな悩みにのってあげろ。そしていろんな事を聞いてあげろ。人間はコミュニケーションが大切だから・・」
「兄貴にそんな事言われたくねえよ」
「それと・・・」
「もういい。わかった、わかったから」