5、完全復活(2)
翌日も、そしてその翌日も、直哉はひたすら走っていた。足の具合はすこぶる調子が良い。新しいフォームもかなり体に馴染んできた。
そして思いっきって全力疾走してみる事にしたのだ。距離は800m。渾身の力を込めて走る。
「尾崎さん。タイム計ってください」
「わかった」
そして直哉は、スタートラインへと立った。いよいよ部員達にこれまでの成果をお披露目する事となった。不安は何も無い。頑張ってきたから何も不安はなかった。
「用意!スタート!」
尾崎のその掛け声を合図に、直哉は全力で走り出した。
100m。200m。300m。直哉は今までのように足を止めようとはしなかった。
それどころかどんどんと加速していく。全盛時代の伸びのある走り。これこそが天才ランナー牧野直哉である。
400m。500m。直哉はトラック上で、その熱い走りを部員達に披露する。
「牧野!頑張れ!頑張れ!」
部員たちのその励ましの声。声援。アキレス腱には何も不安は感じない。足がどんどんと前へ進む。
「牧野頑張れ!」
「牧野!いけえ!」
そして直哉はそのまま見事800mを走破してみせたのだ。
「やった!走れた!やった!」
直哉はそう言いながら、大喜びのガッツポーズ。そして駅伝部員達も一斉に駆け寄り、「やったな!」と言って、直哉の背中をパンパンと何度も叩いた。
天才ランナーは見事復活を果たした。
5月も終わろうとしたこの日、直哉の長く眠っていた足は、遂に目を覚ましたのだ。
数日後、駅伝部に新たな部員が入部してきた。直哉と同じように、陸上選手としては大柄な体。短く刈り込んだ髪はいかにもスポーツマンと言うべきだろう。
彼の名は『鷲尾優作』と言う。学部は工学部。学年はまだ1年生である。
この優作は、昨年の高校総体で、10,000m全国5位に入賞したつわものである。彼は高校3年生の頃、東洋大学や順天堂大学から声がかかったが、親の電気工事会社の跡を継ぐために、この大学に進学してきたのだ。
スポーツ推薦だと、理工系の学部に入れてもらえないからである。それにこの3流大学、不思議と工学部だけはレベルが高かったのだ。
陸上競技は、今は全くやっていない。高校時代で陸上を辞め電気工学の勉強に没頭しようと思った。しかし、この間、トラックで直哉の熱い走りを目の当たりにして、もう一度心に火がついて入部してきたのだ。
「何でもやります。宜しくお願いします」
そう言って深く礼をする優作は、誰が見ても好感の持てるスポーツマン。少しスレ気味の武とは全く違った印象だった。
キャプテンの尾崎に、高校総体優勝経験のある直哉。抜群の瞬発力を兼ね備える、元ラグビー部の武。そしてこの優作。
遠かった箱根駅伝。その距離がグッと近くなったような気がした。