5、完全復活(4)
直哉は第一京浜に出ると、大通りの歩道を軽快に飛ばして行った。
そして蒲田を過ぎ、多摩川大橋を過ぎ、川崎を過ぎ。まるで箱根駅伝の第一区間を走行しているかのようだった。
さらに海沿いの道を走ると、遠くにランドマークタワーが姿を現した。
みなとみらいのすぐ近くに、山下公園が存在する。
「もう少しだ!」
そう言うと直哉は、更に速度を上げて、山下公園に向かって突き進んでいった。
何も苦しい事はなかった。きっと五反田で詩織が自分の帰りを待っていてくれる。そう信じていた。その事を思えば、何一つ苦しい事も無かった。
そして山下公園に到着すると、直哉は思わず海に向かって「うおー!」と吠え、そして右手こぶしを高らかに上げた。
なんと30kmもの道のりを走破したのだ。やっとここまで走れるようになれたのだ。
そしてその場でバタンと大の字になった。嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。遂に負け犬を打破したのだ。自分という弱さに打ち勝ったのだ。
「はあ、はあ・・・やった・・・俺やったよ・・・」
そんな事を言っていると、鼻先になにやら冷たい感触を覚えた。なんと、ポツ、ポツと雨が降り出してきたのだ。
「あ、やっべえ!」
そう言うと直哉はすぐさま起き上がり、バラの花を一輪取ると、今度は詩織の待つ五反田に向けて走りだした。
すでに日が落ちて、あたりは真っ暗と化してしまった。詩織は、自宅から持ってきた傘を差しながら、ひたすら直哉の帰りを待っていた。
携帯に電話をしても出ない。一体直哉は今何処を走っているのだろうか?
雨の五反田の街は、道行く人の色鮮やかな傘の花が咲いていた。そんな中詩織は、ただただ直哉の事を心配しながら、彼の帰りを待ち続けた。
しばらくすると、交差点の向こうから走ってくる、ずぶ濡れの男の姿を見つけた。
直哉だった。
「ナオ!」
そう言うと詩織は、思わず直哉を目指して駆け出していった。そして交差点の中央で、二人向かい合うと、ずぶ濡れの直哉はニコリと笑って見せた。
「いやあ、雨が降る事まで想定にいれてなかった。馬鹿だなあ」直哉はずぶ濡れの姿で、思わず笑ってしまった。そして「はい詩織、約束通りとってきたよ」と言って、一輪の白いバラを詩織に手渡した。
すると詩織は怒り出してしまった。
「馬鹿!ナオの馬鹿!何でこんな事するの!怪我でもしたらどうするの!風邪でもひいたらどうするの!」
「詩織の為だから・・・」
「え?」
「詩織が好きだから。俺は詩織の事が好きだから」