フォーエバー・フレンズ -82ページ目

7、海の上の空気(2)

佐久での合宿は、尾崎キャプテンの元、過酷を極めた。

高地でのロードワーク。なんと、ひと月で1,100kmもの距離を走る目標をたてていた。

「はあ・・・はあ・・・」

直哉はひたすら故郷佐久の高地を走り続けた。そして、一度は死んだ直哉の体は体をいじめ抜いたおかげで、日を追う事に機敏な物と化していた。一度は忘れかけたこの体、いつ爆弾が炸裂するかもしれないが、何も恐れずに、勇気を出し、そして勝利に向かって邁進するかの如く、突き進んでいた。

勿論直哉だけではない。尾崎キャプテンも、武も、優作も、そして全部員が日を追う事に、記録を伸ばしていった。




夜、宿舎で一人本を読んでいると、武と優作が部屋の中へと入って来た。

「直哉、合コンしようぜ!」武がそう言うと、直哉は「はあ???」と言って驚いた。

さらに最近武とつるんで、女に興味津々の優作も同じように「牧野さん行きましょうよ」と声を掛けてきた。

「ここは佐久だぞ?どうやって合コンやるんだよ」

しかし武は自信満々で熱く語る。

「ばっかだなあ。俺、マメだから夜もしっかりセッティングしてるんだよ。さっき、城西大のテニスサークルの女に声掛けたら、夜、合コンしようって話になってさあ。どうもテニスサークルの男は軟弱らしいな」

そんな武の話を聞いて、直哉は完全に呆れかえってしまった。そして「俺、彼女いるから無理」と言って、布団の中に潜り込んだ。

「え?お前女いたのか?」

「いるよ」

「何だよ。写真見せろよ」

武にそう言われると、直哉は自慢の彼女をみせてやろうと思い、充電中の部屋の隅に置いてある携帯電話を手に取った。そして携帯画面に映し出された詩織の画像を、どんなもんだと言わんばかりに武に見せつけてやった。

「あ、なんだよ可愛いじゃん!」

「だろ?」

「ん?・・・でも、どっかで見たことあるぞ」

「詩織を?そりゃピアノで有名だからな」

「う~ん・・・」

そう言うと武は少し難しい顔をした。




結局、武と優作だけが、その城西大学のテニスサークルとやらの、女性達とのコンパに出掛けてしまい、民宿の部屋には、尾崎キャプテンと直哉の二人が取り残されてしまった。


「なんとかなりそうだな」

尾崎がおもむろにそう言うと、直哉は「何がですか?」と意味不明な顔をした。

「箱根さ」

「そうですか???」

「ああ、なんか最近肌で感じるんだ。箱根が近くなっているなあって」

「どうしてですか?タイムがまだ全然足りないじゃないですか?」

「タイムだけでは、箱根は語れないと思うんだ。なにせ10人が全員好条件じゃないと予選会は突破出来ない。勿論俺も本戦に出たことは無いけど、毎年予選会には出る。そうしたらこのチームは絶対に大丈夫だろって思った学校が、簡単に予選落ちしてしまうんだ。あれは魔物さ」

尾崎にそのような事を言われて、直哉も黙り込んでしまった。自分だって箱根駅伝は出たことがないので、その魔物という存在を知らない。

そしてさらに尾崎は、語り続ける。

「俺たちは、順大や東洋大のように、綺麗には走れない。だから・・・」

「だから何ですか?」

「襷をつなぎたい。もがき苦しんでも、這いつくばってでも襷をつなげられるようなチームになりたい。そしてそうなる日が近く感じるんだ」

「・・・」

「大手町をスタートした時の襷を10区までつなぎたい。それは当たり前のようだけど、難しい。その当たり前と思われる事をやりたいんだ」

「・・・そうですね」


直哉は尾崎キャプテンの事を少しは見直した。いままでは言葉だけで『目指せ箱根駅伝』と言っていたが、今の彼は、自分たちの力をよく分析し、そして自分達がどのように走れるかをよく理解していた。もし東部工業大が出場出来たとしても、自分達の襷を最後までつなぐ事すらも難しい。

彼は今、その前提条件の中で、自分達が何を出来るかという事を考えていたのだった。





翌日も、またその翌日も、直哉は佐久の高原を走り続けた。


そして、合宿を終え、各自の20kmのベストタイムは、次のように向上していった。


鷲尾 優作     58分03秒

牧野 直哉     58分14秒

尾崎新太郎  1時間01分16秒

小野寺 武  1時間01分07秒

久保 義人  1時間02分17秒

岡野 雄志  1時間02分07秒

富良野 久  1時間02分16秒

大貫 啓太  1時間02分46秒

小島 卓也  1時間03分52秒

手塚圭一郎  1時間03分10秒


予選突破ラインと言われる、平均1時間01分台のタイムに届きそうであった。