フォーエバー・フレンズ -80ページ目

7、海の上の空気(4)

翌日、二人は鎌倉の由比ガ浜へ海水浴に出掛けた。そして一つの浮き輪を二人で使いながら、ただ波に揺られていた。

「ねえナオ、私がもし歩けなくなったらどうする?」

「その時は、詩織を背負って走ってみせるよ。そして一緒に風を感じる」

「じゃあ、私の目が見えなくなったら?」

「その時は、いっしょに詩織の好きなオペラを見に行こうよ。そして素敵な歌を耳で感じよう」

「それじゃ、私の耳が聞こえなくなったら?」

「その時は・・・そうだ!一緒に山下公園のバラ園に行こう。そしてバラの花の香りをかごう」

「あはは、ナオって変。あはは」

「ど、どうしてだよ!」

「うそうそ。ナオ、好きだよ」

暑い日差しが落ちようとする由比ガ浜。二人は、海に浮かびながらキスをした。

そしてその後、海の家でシャワーを浴び終えた二人は、夕暮れの浜辺を、二人肩を並べて歩いていた。

詩織の命が後どれくらいあるかはわからない。でも、最後までこうやって幸せに生きて行ければ。そんな事を考えながら、ただぼんやりと歩く詩織は、ふと直哉に質問してみた。

「ねえナオ、今度生まれ変わるとしたら何になりたい?」

「生まれ変わる?」

「そう」

「う~ん・・・そうだなあ・・・。ケガをする前の自分に生まれ変わりたいかな」

「そうなんだ。人間に生まれ変わりたいと思うんだ」

「そりゃあそうだろ・・・それじゃ詩織は何に生まれ変わりたいんだ?」

「私は空気になりたい」

「空気?」

「海の上を漂う空気になって、何の意識も無く、何の苦しみも感じずに、ただ彷徨っていたい」

そう言うと詩織は、ただひたすらぼんやりと海を見つめ続けた。

8月25日。この日は詩織の20回目の誕生日だった。

直哉の彼女の誕生日という事で、まどかが「みんなで誕生会しよう」と言って、二人を自宅に招いてくれたのだ。

そして部屋に入ると、直哉の誕生会の時と同じように、お花で作られた文字が飾られていた

『しおりちゃん たんじょうび おめでとう』

「まどかさん。ありがとう・・・」

その飾りを見ると、詩織は思わず涙を流してしまった。去年父親を亡くしてからずっと一人ぼっちだった詩織にとって、こんなにも嬉しい事は無かった。

「よかった喜んでくれて。いつでも家に遊びに来てね」

まどかはそう言うと、優しく詩織に微笑んだ。

「ありがとう・・・本当にありがとう・・・」詩織はそう言って、ただひたすら泣き続けた。

しかしどういう訳か、恵一が部屋にいなかった。

「あれ?兄貴は?」

直哉がそう言って部屋の中を見渡すと、まどかは「なんか病院で特別な仕事があるらしいの」と言って、黙々とパーティーの準備を始めた。

そんな中恵一は、病院の中で、詩織の検査結果の内容を確認していた。そしてそのCTスキャンの結果を見ると、思わず難しい顔をしてしまった。

そんな事をしていると、部屋の中に一人の同僚の医師が入ってきた。

「牧野、何CTの結果まじまじと見てるんだ?」

「あ、いや・・・」

その医師は「どれどれ」と言って、そのCTスキャンの画像をまじまじと見つめた。

そして「こりゃ完全に転移してるな」と言って、同じように難しい顔をした。