フォーエバー・フレンズ -76ページ目

8、明かされた秘密(4)

詩織はそのまま、恵一が務める病院へと搬送された。


そして救急車から担架で降ろされたその女性の姿を見て、当直だった恵一は思わず驚いてしまった。

「岡本さん!」


そして緊急手術が行われ、詩織は一命をなんとか取りとめた。






翌朝、詩織は意識を取り戻した。そして恵一が病室を訪問すると、詩織は元気なくずっと布団の中にくるまっていた。

「気分はいかがですか?」

恵一がそう聞くも、詩織は何も答えようとしない。

「急激に走ったりすると、体に負担をかけます。以後気をつけてください」

「はい・・・」

「で、直哉は来るのですか?」

「・・・来ないです」

「どうしてですか?」

「別れたんです・・・」

「一体何が・・・」

「・・・」

詩織はその理由を話そうとはしなかった。その元気の無い詩織の姿を見て、恵一は少し考え込んだ。

そしてふと思い立ったかのように「直哉にあなたの病名を教えたい」と言い出した。すると詩織は小さく首を横に振った。

「どうしてですか?」

「箱根があるから・・・」

「直哉はあなたより箱根の方が大切なのか?」

「先生。もういいのです。私が悪かったんです。純粋なナオの心をもてあそんでいたのです」

「一体何が・・・」

「聞かないでください。もう終わったんです・・・」





恵一は、自宅のある目黒ではなく、五反田の直哉の家へと向かった。

詩織の癌は末期症状にある。もう命はそんなに長くは無い。本当は病名を教えたいが、医師には個人情報を守らねばならない責務もある。いくら兄弟であろうとも答えるには限界があった。

自分がどうすれば良いかはわからないが、とにかく直哉に会おうと思ったのだ。

恵一が直哉の部屋に行くのは初めての事だった。

そして部屋のブザーを鳴らすと、直哉が「兄貴・・・」と少し驚いた表情をしながら出てきた。


直哉は玄関先までしか恵一を入れなかった。しかし玄関先でもいいので、詩織が入院した事だけは伝えたかった。

しかし当の直哉は「詩織と俺は関係ない」と言い放った。

「どうしてだ?」

「理由は言いたくない。大体どうして兄貴に詩織の話をしなきゃいけないんだよ」

「じゃなくて、彼女が入院したんだ。とにかく来い」

「じゃあどんな病気だよ?」

「・・・とにかく来てくれ」

「答えられないのかよ?」

「・・・」

「どうせ詩織のウソだろ」

「直哉!」

「大体兄貴に何の関係があるんだよ!」

「何でお前は人の話を聞こうとしない!」

「そんなのは兄貴に言われる筋合いはない!兄貴の方がよっぽど人の話を聞かないじゃないか!」

「俺がいつそんな態度をとった!」

すると直哉は目に涙を浮かべ「いつもだよ・・・」と小さな声で言った。

「直哉・・・」

「昔からだよ。俺が苦しんでいる時も、俺が泣いている時も、兄貴はいつもそんな事そっちのけ。自分の事ばっかり。親父が心筋梗塞で倒れた時覚えているか?俺、何度も兄貴に佐久に帰ってきてくれと電話したよな?だけど兄貴は無視した!」

「・・・」

「家族が大変な時、兄貴はいつも無視だった。そんな奴が、人につべこべいう権利あるのかよ!」

そういうと直哉は扉をバタンと閉じた。




直哉はもう自分がどうしていいのかが分からなくなってしまった。それでも詩織の事が好きだ。しかし、今この状態で会うのがどうしても出来なかった。

ピアノに熱心で、優しくて真面目で。

自分が勝手な虚像たるものを作ってしまったのではないのか?全て独りよがりだったのか?そんな想いで、自暴自棄になっていた。

結局結論としては、詩織とは会わない方が良いと言う答えであった。






その日の深夜、恵一はずっと眠れないでいた。

何があったのかは知らないが、直哉は詩織の病気の事を全く何も知らない。それどころか詩織の入院が『仮病』だと言う始末。

どうすれば良いのか?

詩織の意に反して、自分から直哉に告げるべきなのだろうか?

それとも直哉に気付かせるべきなのだろうか?


そんな事を考えていると、隣で寝ていたまどかが「恵ちゃん眠れないの?」と声を掛けてきた。

「ああ」

「明日も仕事なんだから、早く寝ないと」

「ああ・・・」

恵一は目を閉じた。直哉の言った言葉を思い出してしまった。


『家族が大変な時、兄貴はいつも無関心だった。そんな奴が、人につべこべいう権利あるのかよ!』


直哉の言う通りだった。自分はいつも佐久の実家の事については放置。関心すら持たなかった。自分が家を出て行ってから、直哉に負担をかけてきた事に違いはなかった。

そして思い立ったように口を開いた。

「なあ、まどか」

「なに?」

「オレって自分勝手かな?」

突然の恵一の質問に、まどかは少し考え込んだ。そして「ううん」と眠たそうな顔で言う。

「恵ちゃんは説明が足らないだけ」

「説明?」

「うん。私にはわかるんだけど、他の人から見たら、恵ちゃん一言足らないんだと思う。だから一生懸命やっても、感謝されなかったり、誤解されたり・・・とにかく損してるなあって」

「そうか・・・」

「でもね。私はそんな恵ちゃんの事が好きだよ。恩着せがましくなく、言い訳もしないし、少なくとも私は恵ちゃんの事理解しているよ」