フォーエバー・フレンズ -74ページ目

9、命のソナタ(2)

そして直哉は見事、この予選会を1位でテープを切ったのだ。タイムはなんと57分25秒。まさしく脅威の自己ベストであった。

「やった!」

直哉はそう叫ぶと、立川の空目掛けて拳を高らかに振り上げた。

割れんばかりの拍手の渦。そしてこの恐るべし新星の登場に、各報道陣がこぞって直哉を取り囲んだ。パシャパシャと眩しい程のカメラフラッシュ。直哉は遂に完全復活を果たしたのだ。そしてその報道陣を前にして、直哉は笑顔でガッツポーズをした。


しばらく経つと優作が4位でゴール。タイムは、59分03秒。

武と尾崎が、8位、9位と並ぶようにしてゴール。タイムは1時間00分24秒。


好タイムが次々と続き、後は結果を待つのみとなった。






400名ものランナーが並ぶ中、自衛隊駐屯地では予選会の結果発表が行われた。そして大会事務局の男性がマイク片手に次々と順位を発表する。




「第一位。山梨学院大学」



「第二位。国士舘大学」



「第三位。東京農業大学」



呼ばれた大学からは、次々と歓喜の声が上がった。


そして・・・。




「第四位。東部工業大学」




その名前を聞いた瞬間、尾崎キャプテンは「やったぜ!」と言って、ガッツポーズをした。

そして、直哉も武と思わず抱き合ってしまった。

部員達はもみくしゃになり、飛び跳ね。まるで本大会で優勝でもしたかのようだ。


遂に東部工業大学は箱根駅伝の切符を掴んだのだ。そして正月、彼らは全国のお茶の間の前で、その走りを披露する事となった。






大会会場を出ると、部員達はワクワクした顔で、立川駅へと歩いていた。夢にまでみた箱根駅伝。その夢が遂に叶ったのだ。しかし、直哉だけは何処か晴れない気分でいた。

少し前までは、自分は詩織の為に走っていた。詩織の喜ぶ顔が見たくて、詩織のあの笑顔が見たくて走っていた。

だが、あの日以来詩織とは連絡すら取っていない。

そんな詩織への想いが直哉の脳裏をよぎり、ふと電話を握るも、どうしても詩織に電話する事が出来なかった。




そして一人五反田の部屋へ帰ると、パソコンのフォルダに残されていた詩織の写真を見つめた。

それは由比ガ浜へ海水浴にいった時に写真だった。

水着姿で、目を細めて笑う詩織。その姿をみると、切ない気持ちになってしまう。

詩織の言葉一つ一つが、嘘のようには思えない。しかし現に、秋葉原であのような形で出会ってしまった。本当は探りなど入れず、美月ゆりなは別人と自分で信じ切った方が、楽だったのかもしれない。

「詩織・・・」

直哉はそう言いながら、悲しそうな目でその写真を見つめた。