9、命のソナタ(5)
明け方、詩織は幕張のホテルで、激しい胸の痛みで目を覚ました。
「く、くるしい・・・ナオ・・・助けて・・・」
そう言って詩織は、布団の中でひたすら胸を押さえながらもがいていた。とても立てる状態ではない。フロントを呼ぼうにも、電話にすら手が届かない。
何もする事が出来ず、もがき続け、そのまま気を失ってしまった。
そして・・・。
『ナオ・・・助けて・・・』
直哉は、そんな心の声で目を覚ました。
「詩織!」
そう言って飛び起きると、時刻は朝の8時。
確かに今のは、詩織の声だった。詩織が自分に助けを呼んでいる。
そして詩織がかつて自分に言っていた言葉を思い出した。
『私は天才じゃない。だから綺麗には生きていけない・・・綺麗じゃないけど・・・それでもピアノが好きだから・・・』
その言葉を思い出すと、直哉は詩織の写真を引き出しから取り出した。
優しそうな笑顔。この目を細めた笑顔が見たくて、自分は今日まで頑張ってきた。
詩織に喜んでもらいたくてここまで頑張ってきた。
そんな事を思うと、目から涙がポロポロと流れ始めた。
そうだよ。
ずっと詩織の為に走ってきた。
詩織とともにここまで来る事ができた。
どんな形であっても、詩織は詩織。間違いない。
たとえAV女優であっても・・・。たとえ嘘をついていたとしても・・・。
辛くても、苦しくても、二人で乗り越えていこう・・・。
俺は・・・俺は・・・。
それでも詩織が好きだ。
そして直哉は、コンクール会場へと急いで走って行った。
もし詩織がまだ自分の事を好きでいてくれるなら・・・
もし少しでも自分に想いをよせてくれているのなら・・・
詩織、その時はやりなおそう。
いろいろあるかもしれないけど、でも、なんとか頑張って二人で乗り越えて行こう。
そんな事を思いながら、直哉は必死にコンクール会場へと向かっていった。
そしてコンクール会場へ到着すると、ホワイトボードには『岡本詩織 棄権』と書かれてあった。
「棄権・・・どうして・・・」
すると突然、ポケットに入れていた携帯が鳴りだした。取り出して画面を見ると、恵一からの電話だった。
「もしもし」
「直哉か?すぐに病院に来い!」
「なんで?」
「いいから来い!」