フォーエバー・フレンズ -67ページ目

10、雪の箱根 仲間の襷(2)

1月2日。

遂に第89回箱根駅伝が開催された。正月の読売新聞社前には沢山の観客、そして報道陣。選手達が集結していた。



あちらこちらに大学名の書かれた幟が上がる。その中に緑色の生地に『東部工業大学』と書かれた幟が上がっていた。

初の箱根駅伝出場で大学内も大いに沸いていたのだ。


優勝候補の筆頭は、やはり去年の覇者である東洋大学。その次は早稲田大学、順天堂大学と続く。東洋大学は5区の山登りを走る増田という3回生がエースランナーと言われている。その増田は、高校時代の直哉のライバルであり、直哉をみるとすぐさま声を掛けてきた。

「牧野!牧野じゃないか!」

「増田さん!」

「なんだよ!復活したんだってな。連絡ぐらいしろや」

「すみません忙しくて。でも、まだまだですよ。今は増田さんの足元にも及ばないです」

「いや、お前ならきっと何か起こすよ。うちもマークしとかないとな。あはは」


東洋大学に、マークをすると言われ、部員一同少し照れてしまった。全員そんな訳ないだろと思っていたからだ。なにしろこのチームには20kmを、一時間以内で走る選手がゴロゴロといる。はっきり言って東部工業大学等、足元にも及ばない。

しかし増田は「わかんないぞ。箱根は魔物が住んでいるからな」と言って去って行った。その表情はまさしく真剣そのものであった。

増田の言う通り、箱根には魔物が存在する。はっきり言って何が起こるかがわからない。


すると隅の方にいた尾崎が、携帯のワンセグを見ながら「よっしゃ!」と叫んだ。

「どうしたんですか?」直哉が不思議そうに聞くと、尾崎は「箱根は今、雪が降っているらしい。こりゃ5区は荒れるぞ。うちに有利かも」と自信満々に言ってのけた。

「どうしてですか?」

「うちの武は、元ラガーマンだから悪路にはめっぽう強い。他のチームはどうだろう?ひょっとしてこりゃいい線いくかもな」

そう言うと尾崎はすこし不気味な表情で笑って見せた。


そして東部工業大学のラインナップは次のように決まった。




1区  富良野 久 大手町~鶴見中継所

2区  久保 義人 鶴見中継所~戸塚中継所

3区  岡野 雄志 戸塚中継所~平塚中継所

4区  大貫 啓太 平塚中継所~小田原中継所

5区  小野寺 武 小田原中継所~箱根芦ノ湖

6区  小島 卓也 箱根芦ノ湖~小田原中継所

7区  手塚圭一郎 小田原中継所~平塚中継所

8区  鷲尾 優作 平塚中継所~戸塚中継所   

9区  尾崎新太郎 戸塚中継所~鶴見中継所

10区 牧野 直哉 鶴見中継所~大手町




5区の山登り区間で順位を稼ぎ、復路で一気に追い込んで行こうという作戦であった。


そして尾崎はスタート前に全員を集めた。

「優勝は難しい。シード入りもはっきり言って難しい。でも、襷だけは何とかつなごう。それだけ考えて行こう。つなげりゃなんとかなる。諦めないで頑張ろう」

その尾崎の言葉に、全員がうんうんと頷いた。そして全員で円陣を組んで、威勢の良い掛け声を上げると、第一区のランナーがスタートラインへと走って行った。




読売新聞社前には、各チームの選手が横一列に並ぶ。いよいよ決戦が始まろうとしていた。

そして「用意!」という掛け声の後に、空高くバンと響き渡る音。

その音とともに、第一区の20人のランナーが、一斉に読売新聞社前をスタートして行った。

わーと上がる大歓声。これぞまさしく事実上の大学最高峰の戦いである。






「きゃー!」



まどかはテレビ画面を見ながら、興奮気味にそのスタートを見守った。テーブルの上にはまどか特製のおせち料理。そのおせち料理を、恵一はいつものような無愛想な態度で、むしゃむしゃと食べる。

「ねえ恵ちゃん」

「・・・」

「恵ちゃんてば」

「なんだよ」

「直哉君明日走るんでしょ?ねえ、一緒に見に行こうよ」

しかし恵一は全くの無視。直哉の話になると、食いつこうともしない。そして「ごちそうさま」と言うと、自分の部屋に閉じこもってしまった。




「本当ひねくれてるなあ」


まどかが、そんな事を言いながら洗い物をしていると、なにやら恵一の部屋からテレビの音らしきものが聞こえてきた。いつもはテレビ等見ずに本を読む恵一。その恵一が自室のテレビを付けるなんてとても珍しい事だった。

不思議に思い、恵一の部屋の扉を恐る恐る開けると、なんと恵一は自室のテレビで箱根駅伝の中継を見ていたのだ。


「恵ちゃん!」


まどかのその声に、恵一は驚き飛び上がった。そしてすぐさまチャンネルをバラエティー番組へと変えてしまった。

「箱根駅伝なら、一緒に見ようよ」

「違う。たまたま変えただけだ。俺は今こっちを見てるんだ」

テレビ画面を見ると、なんとAKB48がテレビに出ていた。

「恵ちゃんAKB興味無いって言ってたじゃん」

「今は興味があるんだ」

「じゃあ、知ってるメンバーの名前言ってみてよ」

「今ファンになったばかりだからわからない」

そう言うと恵一は、上の空のような表情で、画面に映るAKB48を見つめ続けた。



さすがのまどかもこれには失笑してしまった。