1、臥薪嘗胆(3)
するといきなり、後ろの方からクラクションを鳴らされた。そのクラクションに驚き、後ろを振り返ると、二人の背後に白い4トントラックが止まってあった。
真っ赤のクレーンのついたトラック。別名ユニック車とも呼ぶ。
そのトラックは、工事現場からの帰りなのか、あちらこちらに泥跡が付着し、荷台には建設機材らしきものが満載に積み込まれていた。
二人をまぶしいくらいにパッシング。そして窓から、がっちりとした体型の男が顔を出す。
「おう!野島!野島じゃねえか!」
「ゆ、優太!」
「おう!二人とも乗れや!家まで送ってやるよ」
そう言われると、圭一郎と恭子はなかば強引に、その4tトラックの中へと乗せられてしまった。
夜の東京の街中を走る優太の4トンユニック。コックピットの中は砂埃だらけ。家に帰ったら洋服のホコリ払わないと。恭子はそんな事を思いながら、ハンカチで口を押さえながら、後ろのベッドの部分に座っていた。
しかし当の圭一郎はそんな砂埃を気にもせず、とても嬉しそうに優太と話し続ける。
「優太、お前今何してるんだよ」
「俺?俺は見ての通り土方やってんだよ。親方さ」
「そうなのか?じゃあ社長じゃん」
「まあな。でも丸和と違って、従業員は俺含めてたったの3人だけさ。あはは」
がっちりとした体型の、この優太と呼ばれるこの男の格好は、ドロドロの作業着姿。
恭子にしてみれば、こんな人が圭一郎の友達とは到底思えなかった。そして「あの・・・野島さんのお友達ですか?」と勇気を振り絞って聞いてみた。
すると優太はルームミラーに写る恭子の顔を見つめて笑った。
「友達も何も、俺たちは幼馴染さ。それに高校時代も同じ野球部だったんだ」
「そうだったのですか」
そしてしばらく時間が経つと優太は「野島、お袋さんの墓参り済ませたか?」と聞いてきた。
「お袋?」
「お前何言ってるんだよ。昨日命日だっただろ?」
「あ・・・忘れてた・・・」
「馬鹿か!あんないいお母さんだったのに。お前罰当たるぞ」
「ああ、そうだったな・・・すまない」
圭一郎の住むマンションは、成城学園前にある2DK。真っ暗な部屋に灯りをつけると、棚の上には、20年前、家族で伊豆へ行った時の写真があった。
父の克彦、姉の桜子、幼き日の圭一郎。そして亡き母・・・。
「お母さん。ごめん。今年も命日を忘れてたよ・・・」
そう言いながら圭一郎は、悲しそうな顔でその写真を見つめた。
二十年もの歳月が経つと日々の忙しさに追われ、ついつい命日というものを忘れてしまう。
この家族写真を撮った半年後、圭一郎の母は癌が原因で他界してしまった。まだ小学校2年生だった圭一郎。それからは5歳年上の姉の桜子が、母親代わりとなって育ててくれた。
姉は10年前、青田幸介という男と結婚。
そしてその姉婿の青田は、創業家の親族である事を強みにして、メキメキと頭角を現し、わずか5年間で常務取締役へと就任。実質上の丸和工務店ナンバー2の地位についた。