フォーエバー・フレンズ -54ページ目

2、墜ちてきた星の王子様(1)

「あれ?」



綾乃は、太陽エンジニアの社長室を清掃中、応接室のテーブルの上に置いてあった、ある一枚の経済誌に目が行った。

その表紙には一人の若き男性が、アラブ国王と肩を並べて、石油プラント建設現場を視察する姿が載ってあった。

サングラスをかけ、ダンヒルのスーツに身を包むその男。その姿はまるでハリウッドの俳優かのようにカッコ良かった。

「かっこいい人・・・」

綾乃がそう言ってその雑誌を手に取ると、すぐ側の社長席に座っていた小田社長が「野島圭一郎さ」と日本経済新聞を読みながら一言。

「野島圭一郎さん?」

「丸和工務店の御曹司だよ。ゼネコン界のプリンスと呼ばれている」

「え?あの丸和工務店の御曹司?え?この人って何歳?」

「確かまだ20代後半だぞ。綾乃とそんなに歳は変わらないはずだ」

その言葉を聞き、綾乃は思わず目を輝かせてしまった。そして「すごい!じゃあ、星の王子様じゃん」と言って、その美しい姿に終始見とれてしまった。

「俺も親のブレーンというものがあればなあ・・・」小田社長はそう言うと、羨ましそうな顔をした。



年商5000億円の丸和工務店とは程遠い、中堅企業の太陽エンジニアリング。事務所は六本木ヒルズではなく蒲田に所在する。

今年で47歳になる小田社長。若き頃から自分の会社を丸和工務店のようにしてみたいと夢を持っていたが、その夢も現実の厳しさに晒され、今や夢どころかいつも資金繰りで頭を悩ます毎日。夫婦の仲も最悪。挙句の果てに、この美人社長秘書である『音無綾乃』という25歳の女性とは愛人関係。



「綾乃。今日一緒にメシ行くぞ」

「うん・・・」

社長に誘われた綾乃は、何となく気の乗らない顔をしながら、そんな返事をした。



本当はこの小田社長との関係をいい加減解消したいと思っていた。別に嫌いという訳ではない。ただ相手は妻子持ちで、結婚出来る訳でもない。子供を産める訳でもない。

しかし、どうしても後一歩を踏み込めないでいた。そしていつも問題を後回しにし、結局はズルズルとこのような愛人関係を続けていた。



大久保で小田社長と一緒に韓国料理を食べ終えると、そのまま車に乗せられ、二子玉川の2LDKのマンションへと帰る。勿論このマンションは、小田社長名義のマンションである。綾乃は普段このマンションに住み、週二回は小田社長がやってくる。



ベッドの中で二人戯れ終えると、綾乃はベッドの横に置いてあったスマートフォンを手に取った。戯れの最中に、2回程ブ~ンとバイブの音がなったので、あまり集中が出来なかった。そしてメールの主を見て、綾乃の顔が思わず歪んでしまった。

「誰からだ?」

「西原優太」

綾乃はそう言うと、そのメールの中身を見ることもなく削除してしまった。

「あいつお前の事本当に好きなんだなあ・・・」小田社長がそう言うと、綾乃は「キモイ!」と言って露骨に嫌な顔をした。

「何でだ?あれでも立派な社長だぞ」

「あれで社長???ふざけないで。優太の奴本当にしつこいんだもん。大きらい」

「まあ、そう言うな。あいつモテないんだろ?たまには遊んでやれよ」

そんな事を言う小田社長。しかしその顔は、今にも吹き出しそうな顔だった。

綾乃が優太から連日に渡る電話とメールの攻撃を食らっていたため、逆に面白がっていたのだ。

小田社長が優太に対して嫉妬する事はなかった。何故なら優太は、小田社長の経営する太陽エンジニアリングに入り込んでいる下請だったからだ。

嫉妬するには、いかんせん相手が小さすぎた。