2、墜ちてきた星の王子様(3)
優太は「おじゃま」と言って、断りもなく冷蔵庫のビールを取り、その場でプシュッと開けた。昔から遠慮というものを知らない優太に圭一郎も慣れていた。
「お前だけ飲むなよ」
圭一郎はそう言いながら冷蔵庫の中からビールを取ると、優太と同じようにプシュッとフタを開けた。そして少しだけ口にすると、おつまみの柿ピーを用意しながら「どうしたんだよ、こんな時間にさ」と聞いた。
「野島、お願いがある」
「何だよ」
優太からのお願いと言えば、昔から大体お金の件だった。圭一郎はそれを察したのか咄嗟に「オレ今金ないぞ」と言った。
すると優太は「違うよ!」と言って、片眉を吊り上げた。そして「一緒に遊びにいこうぜ」と言って、ニターと笑った。
「はあ???」
優太が何を言っているのか、全く理解出来なかった。
その後の優太の説明で大体は理解が出来た。要は綾乃という女性と遊びたいが故に、当て馬になれという事だった。しかし話だけ聞くと、どう考えても優太に脈があるようには思えなかった。その女性に嫌われているとしか思えなかった。
「優太。その女多分無理だよ。お前嫌われてるよ」
「いいや。今はこうでも、絶対に落として見せる」
優太は自信満々にそう言ってのけた。
昔から欲しいものは意地でも手に入れようとする優太。ゲームが欲しければ、盗んででも手に入れた事すらある。野球部時代もチームの勝利より、自分が目立つか目立たないかが重要だった。とにかく強引で自己中心的な性格は、昔と何ら変わりは無かった。
「野島。俺はどんな事をしてでも綾乃を落とすつもりだ。その為に女に好かれる遊び方を教えてくれ」
「知らないよ。お前が決めろよ」
「無理。だって俺、養老の滝でしか飲まねえもん」
「メシは?」
「牛丼屋か焼き肉屋しか知らない」
「はあ???お前よくそれで女を誘えるな」
圭一郎は思わずあきれ返ってしまった。この後先構わずのイケイケ根性は昔のまんまだった。
男女4人のデートは何処がいいか?
「う~ん」圭一郎はそう言ってしばらく腕を組んで考え込んだ。しかし、いざ考えてみても中々思い浮かばないものである。そして「海開きもしたとこだし泳いでみるか?」と言った。
「何処でだよ」
「逗子なんてどうだ。大学の先輩の別荘があるんだ。海辺のログハウスで、泳いだ後にバーベキュー。こんなんでどうだ?」
「おお!いいなそれ!それでその後ラブホに直行」
「やめろ!」
すると優太はスマートフォンを取り出し、早速綾乃に電話をしだした。
「おお、綾乃?オレオレ。今度の件だけど逗子まで泳ぎに行こうぜ。・・・そう、俺、いいとこ知ってるからさ。ああ、まかしとけって」
この発言に、圭一郎は開いた口が塞がらなくなってしまった。
真夏の太陽の日がまぶしい程に照りつける逗子の海。波は穏やかで、ところどころにヨットが浮かぶ。しかし・・・。そんなのどかな海とは裏腹に、陸路は大渋滞。綾乃のピンクの軽乗用車は、逗子海岸の大渋滞の波に飲み込まれてしまっていた。
「やっぱり電車で行ったほうがよかったね・・・」
恭子は思わずそんな事を口にしてしまった。
「そうだね・・・あ、でももうすぐ着くよ。カーナビに後2kmって出てるじゃん」
「その2キロ、多分長いよ。ねえ、綾乃の友達はもう着いているのかなあ」
「多分ね。だってやる気マンマンだもん。ひょっとして前日入りしてるんじゃない?」
「あはは・・・」
恭子は思わず吹き出してしまった。すると綾乃が「ねえ、恭子。水着ちゃんと買ってきた?」と聞いてきた。
「うん・・・一応は・・・」
デートが海水浴と聞いて、恭子は少しブルーになっていた。スタイルの良い綾乃と違って、自分はチビの幼児体型。はっきり言って全く自身がない。しかも泳げない・・・。
出来ればこのまま着かなければいいとも思っていた。
しかしそんな事を思っていると、道路とは流れるものである。
それからあっという間に到着してしまったのだ。
海辺に建てられたログハウス。駐車場に車を止めると、二人は荷物を持って丸太で出来た階段を上がって行った。そして階段を登りきると、そこには広いテラスが広がっていた。
圭一郎と優太は、既に到着して、バーベキューの準備をしていた。
その二人の姿を見て恭子は「あっ!」と声を出して驚いてしまった。勿論、圭一郎も優太も、恭子の姿を見るや「あっ!」と言って驚いた。
しかし、もっと驚いた人がいた。
それは綾乃である。
今自分の目の前にいるのは、あの経済誌の表紙に載っていた、丸和工務店の御曹司。野島圭一郎である。
「あっ!星の王子様!!!」
綾乃は思わずそんな事を口にしてしまった。
「星の王子様???」