12、使命を背負って生きる(2)
1月の仕事始め。
圭一郎は大会議場にて、丸和工務店の本社社員に向けて新年の挨拶をした。
「皆様。明けましておめでとう御座います。今年で我社も創立46年周年となり、ますますの躍進が期待される年となります。」
そう言って始まった新年の挨拶。そして最後、圭一郎は全社員に「熱い想い」と言う言葉を口にした。
『熱い想い』
それは青田が一番嫌いな言葉だった。精神論の愚の骨頂とまでも言っていた。しかし、新常務取締役の圭一郎はあえてその言葉を口にした。
「世の中で一番大切なもの。それは熱い想いです。丸和工務店の歴史をよく見て下さい。我々の大先輩方は、何もない所に道を作り、何もない山にトンネルを通しました。仕事に汗をかく事。それは何よりもかけがえのない宝なのです。現代社会では、楽に儲けるという考えがはびこっています。しかし、楽して利益を得た企業が、100年の歴史を刻める事が出来るのでしょうか?かつて一世を風靡したライブドア、村上ファンドを見てください。みんな消えていきました。それは汗をかかずに儲けようと考えた行く末なのです。所詮、神から均等に与えられた頭脳。だれしもそんなに変わりはありません。私が社員の皆様に申しあげたいこと。それはたとえ利口でなくとも、たとえ要領が悪くとも、真面目に仕事に汗を流し、情熱を傾けて下さいという事です」
圭一郎のその言葉は、閉塞した環境の丸和工務店社員にとって、とても斬新な言葉だった。
仕事に汗を流す。それこそが働くという事である。
そして役員室に戻ると、窓の外には今日も大東京の街が見える。そして所々にミニチュアのように立ち並ぶ雑居ビル群が見えた。圭一郎はその景色をあまり好きになれなかった。
しかし、世の中の流れとは自分の希望通りには行かないものである。圭一郎は与えられた役員室で今日も黙々と仕事をこなす。
すると恭子が、部屋の中へと入って来た。
「恭子ちゃん・・・」
「野島常務。四半期決算終わりましたので、お受け取りください」
「常務はやめてくれ。いつも通りでいいよ」
「あはは。でも、そんな訳にも行かないでしょ?」
すると圭一郎はゆっくりと席を立ち、大きな窓から見える大東京の景色を見つめた。
「恭子ちゃん、こっちにおいでよ」
「え?どうしたの」
「いいから」
そして二人は、六本木ヒルズの窓から見える、大東京の景色を見つめた。
「恭子ちゃん。この街をビルの上から眺めてどう思う?」
「どうって・・・いい眺めじゃないの?」
すると圭一郎は真剣な眼差しで語りだした。
「この街は大昔、戦争に負けて焼け野原だったんだ。でも、日本は70年もの歳月をかけ、やっとの思いでここまでやってこれたんだ。この街をつくったのは、沢山の職人達の汗と努力の積み重ね。だからこの景色を見れて偉いと思っている者は、所詮作られたものに酔いしれている人間でしかないんだよ」
「・・・」
「恭子ちゃんがこの間俺に言ったように、人は地に足をつけて生きるものなんだ。そして目の前の事に一生懸命になり。そして汗を流し何かを作り上げていく。かつての丸和工務店もそうだったんだ」
すると圭一郎は突然「あ!」と声を上げた。
「どうしたの?」
「あそこで推進工事してる。ねえ恭子ちゃん一緒に見に行こうよ」
「え?う、うん。いいけど・・・」
そして二人は、六本木ヒルズから歩いて10分のところの工事現場を見学しに行った。
ブワ!!!っと鋼管のわずかな隙間から、水を吹き出しながら押し突き進むベビーモールマシーン。作業員たちはカッパを着ているというものの、全員水浸しになっていた。
地上から、圭一郎と恭子の二人はその工事の様子をじっと見つめていた。
「すごい水!野島さんよくこんな事してたね」」
恭子はあまりにもの過酷な現場を見て驚いてしまった。しかし圭一郎は「ここは簡単だな」と言ってのけた。
こんなに水が吹きまくる過酷な現場。恭子はどうみても簡単とは思えなかった。
すると圭一郎が少し自慢げに語りだした。
「水圧を思いっきりかけると、先端の土が無くなりやすいんだ。すると早く掘れる。でも、難しい山に水圧をかけると、山が崩落するんだけど、ここまで水圧をかける事が出来るのは簡単な山の証拠だ」