12、使命を背負って生きる(3)
優太の四十九日法要が終わった翌日、圭一郎はレンタカーを借りて、綾乃とともに三浦海岸へとやってきた。少し息抜きさせてあげないとと、思ったのだ。
太平洋から冬の荒波の押し寄せる三浦海岸。圭一郎と綾乃の二人は、ゆっくりと浜辺をあるいていった。
「東京湾もいいけど、やっぱり海は浜辺がいいよね」
綾乃はそういうと、全身に冷たい風を浴びた。
圭一郎はずっと黙っていた。お腹に子を宿したまま、婚約者に先立たれてしまった綾乃がとにかく可哀想で仕方なかった。しかし、当の綾乃は元気そのものだった。
「短かったけど、優太との生活楽しかった」
「そうか・・・」
「だいぶ前、ノンちゃんがあの時こうすればって後悔ばかりしていたよね。でも私、今あの時のノンちゃんと同じ気持ち。なんでもっと早く優太の優しさに気付かなかったのかなって。でも、いくら後悔しても、時間は戻らないんだよね」
綾乃は笑顔でそう言うと「私、もう一回人生やり直す!」と元気に言った。
「・・・」
「一から出直し!ねえ、ノンちゃん。これからも友達でいてくれるよね?」
「当然だよ」
「よかった・・・私、ノンちゃんのようになりたい。ノンちゃんのように慎ましく、そして人に優しくなれるようになりたい。人に力を与えて、人の事を大切にして・・・」
「そんな事ないよ。俺、ダメ人間だよ」
「ううん。そうだって」
そして、ふと圭一郎は「お腹の子、どうするの?」と聞いてみた。すると綾乃は「明後日おろす」と寂しげに一言。その言葉を聞いて、圭一郎はまたしても黙り込んでしまった。
「せめて四十九日が終わるまで、家族3人でいようと思って、そのままにしてた。まあ、二人とも今の私には見えない存在なんだけどね。でも四十九日も終わったし、これで全てを終わりにしようと思うの。これ以上引っ張ると処置が出来なくなるし・・・」
「なんとか産もうとは思わないの?」
「そりゃ産みたいよ。だって優太の残した命だもん。でも・・・育てていく自信がない・・・仕方ないじゃん」
「綾乃さん・・・」
「こんな頼りないお母さんじゃ、産まれてくる子供が可哀想・・・だから・・・」
綾乃は極寒の海を見つめながら笑顔でそういうものの、その目からは今にも涙が溢れそうだった。
圭一郎は自宅に帰ると、ベランダに立って、ぼんやりと外の景色を眺めていた。
「野島は情に負けて人に流される」そんな事をよく言われる。しかし、人に流されるも、本当に世の中の為になるならば、それはそれで良いことなのでは?
例え人に流されようとも、青田のように私利私欲に走る事無く、真面目に慎ましく生きる。それでいいじゃないか。
それがたとえベビーモールのように修正の利かない人生となってしまっても、どんな真っ暗闇な人生となろうとも、まず人の事を第一に考え、そしてやってくる苦難を一つの使命と思い、それを背負って生きる事。
男の生き方とはそう言ったものではないのだろうか?
そんな事を考えていると、恭子もベランダへとやってきた。そして夕焼けを見つめながら圭一郎言う。
「放っておけないんでしょ?」
「恭子ちゃん・・・」
「好きに生きていいんだよ。野島さん、人の事を放っておけないでしょ?でも、私はそんな野島さんの事が好き。私はただ、野島さんにいつも自信を持って生きて欲しいだけ。元気な顔でいて欲しいだけ。ただそれだけ」
恭子はそう言って、目に涙を浮かべた。
「恭子ちゃん・・・ごめん・・・本当にごめん・・・」
「いいの。社長夫人になりたいから野島さんと結婚する訳じゃないから。例え野島さんがどんな世界に行ったとしても、私はこれからも野島さんを支えていく。だから好きな事、やりたい事をやって」
夕焼け色に染まったバルコニー。恭子が涙目でそう言うと、圭一郎は「ごめん」と言って恭子を強く抱きしめた。