フォーエバー・フレンズ -374ページ目

2、消えぬ思い(4)

陽一は恵を送り終えると、再び横須賀線に乗った。

そして仙台学園にいた頃に起きた、とある事件を思い出していた。

「こちら国土交通省、航空機事故緊急対策本部ですが、徳永さんでよろしいですか」

「はい」陽一は電話越しにそう答えた。

「徳永一郎さんと徳永みずきさんはあなたのご両親ですか?」

「はい、まちがいないです」

「アジア航空144便にご両親が乗られていた可能性があります」

真夜中の仙台学園寮の部屋で、陽一は携帯電話を耳にあてたまま、その場に立ちすくんだ。




恵は今夜も野球少年の夢を見た。
背番号8の少年は、箱根湯元駅前で泣いていた。
「僕どうしたの?」
少年は泣きながら「試合に負けたんだ・・・」と言った。
「次頑張ろうね。だからそんな事で泣いちゃだめだよ」と恵が言うと、少年は首を横に振った。
「試合に負けて、お父さんが怒って・・・。ここから走って帰れと言って置いてかれたんだ
「そうか・・・じゃあお姉ちゃんが家まで送ってあげる。家何処なの?」
少年は「大船だよ・・・」と言った。
これには恵は驚いた。
箱根から大船までの距離は、箱根駅伝3区間分の距離である。
こんな小さな子供に、こんな事をさせるなんて信じられなかった。
しかも野球の試合に負けただけである。
あまりにもの残酷さに、恵は涙が込み上げてしまった。
そして恵は涙を拭いて「よし、じゃあ大船まで一緒に行こう」と言った。
二人は、一緒に歩いて箱根の山を下って行った。
箱根の山を降りると、二人の正面に夕暮れの相模湾が見えてきた。
少年は「おねえちゃん、ここでいいよ。ここからは一人で走るよ」と言った。
「まだ小田原だよ。暗くなってきたら危ないでしょ。道もわからないでしょ」
「大丈夫。海沿いに走れば鎌倉まで帰れる」
「でも・・・」
すると少年は笑って「大丈夫。僕頑張るよ」と言って、走り出した。
恵はその少年の背番号8の後姿をずっと見守った。
写真素材 PIXTA
(c) ヒロ難波写真素材 PIXTA

土曜日の朝、鎌倉市営グラウンドで練習する少年野球チームがあった。
陽一と真が通った古巣鎌倉リトルリーグである。
南関東地区の強豪であるこのチームを率いるのは古屋監督といい、20程年前はプロ野球選手であった。
大学からドラフト3位で阪急ブレーブスに入団し、10年の現役生活を終え、そしてこの地に帰ってきた。
今はこの鎌倉で、プロ野球時代の貯蓄を元手に開業した飲食店を、5店舗経営している。
だが、野球の夢も捨てきれず、この鎌倉リトルリーグの監督も兼任しているのである。
彼の理論は『頭を使う野球』である。
プロ出身の卓越した理論は子供達だけでなく、父親達にも人気があり、お父さん達はこの古屋監督の理論をなんと草野球にまで生かしている程なのだ。
陽一は、この自分の古巣鎌倉リトルシニアのチームを、1年半ぶりに訪れた。
「監督」
「おう!陽一じゃないか!久しぶりだなあ。お前仙台から帰ってきたのか」

二人はグランドの片隅に場所を移し、ベンチに腰掛けながら話し出した。

「そうか、真も港南へ行ってたのか」

「びっくりしましたよ。まさかこんなところで会うなんて」

「お前と真は本当いいバッテリーだったよ。オレが見た中では歴代最高のバッテリーだった。お前小学校で130キロぐらい出していたし、大きく割れるカーブも持ってた。ありゃ子供じゃ打てんわな。それに真もまたいいキャッチャーだった。ドシっと腰の座った構

えでなあ。バッティングも最高だった」

「楽しかったです」

「お前が3番で真が4番。最強のクリンナップで世界大会優勝。オレも人生であの時ほど楽しかった事はなかった。プロ野球時代でもあんなに楽しかった事はなかった」

やがて二人はグランドの周りを歩きだした。

「お前、野球辞めたのか?」

「はい」

「そうか・・・人生いろいろだな。お前と真は絶対プロになれると思っていたのだが」

「すみません」

「謝る事はない。お前が決めた事だしな。宝の持ち腐れってのは、どの世界でもあるよ」

しばらく二人は黙って歩き続けた。

そして古屋監督はなにか思い出したように口を開いた。

「ところで最近は港南の野球部の名前は聞かないな。どうしてんだ?」

「部じゃなくて同好会らしいです」

「どっ同好会!あの港南がか?」

古屋監督は思わず絶句し、その場で立ち止まってしまった。



「じゃあ監督帰ります」

「ああ、また来いよ」

陽一が帰ろうとした時、古屋監督は「おい陽一」と言って呼び止めた。

陽一は少し驚き振り返った。

すると古屋監督は「俺はお前が再び野球をやると思っているんだよ。お前は野球無しでは生きてはいけない人間だよ。真も同じだ」と言い出した。

さらに「お前は今日それを確認しにオレの所にやって来たんじゃないのか?違うか?」と言った。

陽一はじっと古屋監督を見て、やがて下を向いた。

「真と港南で出会ったのは、別に不思議な事じゃない。バッテリーだったお前達が考えている事はきっと同じだ。何故真と出会えたか?それはお前が一番よく知っている筈だ。オレはずっと昔から、陽一と真が港南で一緒にプレーすると思っていた」そう言うと古屋監督は立ち去っていった。
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