フォーエバー・フレンズ -355ページ目

5、仁科先生(4)

仁科先生は恵の説明で、一連の流れが大体掴めた。

だが恵は、部外者の自分が何故ここまで陽一の気持ちを代弁できたのだろうかと、不思議に思った。

そして自分で自分の事がわからなくなってしまった。

「わかった・・・まあとりあえずわかったわ。でも本当に私なにも出来ないよ。野球のルールも知らないし」

「先生、後は俺たちに任せてくれ。先生を甲子園に連れて行って正教諭にしてあげるよ」と陽一が言うと、仁科先生は笑いだした

あはは、まあ期待はしないわ。とりあえずユニフォームは着ないって事が条件。それでよければ力になるわ」

「先生本当に有難う!」陽一は深々と頭をさげ、そして部員達へ報告に向かう為、教室を飛び出して行った。

教室はまるで嵐が去ったようだ。



陽一が去ると、仁科先生は恵に突然「ねえ山野さん。徳永君と付き合っているの?」と聞いてきた。

「ちっ、違います!単なる・・・その・・・なんだろ・・・」恵は返答に困ってしまった。

仁科先生は意地悪そうに「友達じゃないよね」と言ってニヤリと笑った。

「その・・・・」

「いいよ、言わなくても。ただね、私に徳永君の気持ちを彼に代わって言ったでしょ。まるで徳永君の全てを私が知っているって感じだったよ」

「わかんないんです。自分が・・・そして徳永君の事も・・・」

そっか。でも先生は結構お似合いだなって思うな。山野さんと徳永君」

「先生!」

恵は顔を赤くしてムキになった。

「わかった、わかった。もういわないから」と仁科先生は笑って恵に言った。


何故だろう・・・
お似合いと言われて嬉しかった。
徳永君の気持ちを全て私が知っているっていわれて嬉しかった。
どうしてこんな気持ちになるんだろう


恵は、そんな事を考えながら校舎を歩いていると、陽一から借りたDVDをまだ返さずに鞄の中へ入れていた事に気付いた。

「あっ、いけない」恵はそう言うと、野球部のグラウンドへ走っていった。


恵は野球の練習中の司に「ねえ、徳永君は何処?」と聞いた。
すると司は「今さっき部室に行ったよ」と言ったので、恵は部室の方へと走って行った。

そして野球部の部室の前に来ると、陽一はひょっとして着替え中なのではと思い、恐る恐る部室の扉を開き、中を覗いた。

するとそこには『背番号8』をつけた、陽一の大きな後姿があった。

恵はあまりにもの驚きに、声が出なかった。

あの夢と同じ背番号8をつけた陽一が、すぐ目の前に立っているのだ。

陽一は、部室の入り口で目を真ん丸くさせながら、たたずむ恵に気付いた。

「山野か、何の用だよ」

恵は呆然としていた。

「おい、山野」

陽一の呼ぶ声に、恵は正気を取り戻した。

そして恐る恐る陽一を指差して「徳永君・・・その背番号・・・」と言うと、陽一は「ああ、これ?俺センターを守る事に決まったんだよ」と言って笑った。

8のリストバンド
そしてその日の晩も、陽一と恵は汐入駅で待ち合わせをし、いつものように、二人して海沿いのヴェルニー公園を歩きながら帰った。

恵は不思議な気持ちになりながら、陽一の大きな背中を見つめた。
ずっとあの背番号8が頭から離れなかった。
陽一は「なんだよ。山野、今日静かじゃん。どうかしたのか?」と言って、少しだけ恵を心配した。
「ううん・・・なんでもないよ」
すると恵は夢の中で、陽一が高々と上げた左手の、8の数字が刺繍されたリストバンドを思い出した。
「ねえ徳永君、徳永君ってリストバンドはしないの?」
「しない」陽一はキッパリ言った。
「どうして?」
「意味の無い事はやらない」
陽一の野球へのこだわりは異常だった。
陽一はリストバンドどころか、バッティンググローブを付ける事すら嫌った。
バットは素手で握る事が、陽一のこだわりであった。
さらに帽子に型を付ける事も嫌い、グローブから人差し指を出す事も嫌った。
とにかく野球に関しては、物凄い職人気質である。


次の日の放課後、恵はバイト前に、なんとなく野球部の練習を見にやってきた。
すると陽一は守備練習を行っていた。
そしていつものように華麗なフットワークで球を追い、レーザービームのような返球。
その陽一の表情は真剣そのもので、何かを追っているかのような眼差しであった。
「あの夢は予知夢なのかなあ・・・」恵がそうつぶやくと、「徳永君て、かっこいいよね」と言っている数人の女子生徒をみつけた。
そして女子生徒達が「徳永く~ん」と声援を送ると、陽一はその女子生徒の声援に応えるように軽く左手を上げた。
その姿を見た恵はムッとして、その場を去っていった。

なんで私やきもち妬いてんだろ?

もう自分がわからない・・・。


そして去り行く恵の後姿を見て、真は思わず笑ってしまった。

「あいつ、やきもちかよ」

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