フォーエバー・フレンズ -357ページ目

5、仁科先生(2)

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月曜日の昼休みの職員室。

仁科美幸教師は、小さなお手製のお弁当を食べた後、ファッション雑誌を見ていた。

すると「やってられないよ。無料奉仕なんてさ」と男性教諭達の話す言葉が耳に入った。

妙に気になったので、仁科先生はその話に食いついてみた。

すると話の内容は、野球部員達が顧問になってくれと、男性教諭達にお願いをしているらしいのだ。

だが男性教諭達はことごとく断ったそうである。

理由は『無料奉仕だから』『契約外だから』等自分勝手な理由ばかりであり、中でも一番酷い理由は『契約教諭の俺がなんでやらなきゃいけない』という理由だ。

勿論生徒にはそんな事は言わないが、本音はどうやらそこにあるらしい。

日本の教育は崩壊寸前なのかもしれない。

誰もが、人の為に奉仕をする心の大切さを失ってしまったのだ。

この資格だけの教師と、何かをやり遂げようとする生徒達。素晴らしいのはどっちなのか?。

仁科先生は少しムッとした態度で、その男性教諭達に食いついた。

「やってあげればいいじゃないですか。生徒が一生懸命お願いしているのに」

「ダメダメ。残業つかないしねえ。無料奉仕なんてやれない」

「そんな事生徒に関係ないじゃないですか」

「じゃあ仁科先生がやればいいじゃない」

「私は女だし、野球のルールすら知らないですし」

「女性だって野球の監督になれるんだよ。大体こういうのは高い給料もらっている正教諭がやるべきなんだよ」

仁科先生も契約扱いだ。しかしそんな事は生徒に関係ない。


仁科先生は3年前に横浜国立大学卒業し、学部の関係上教師になる道へと進んだ。

しかし教職員採用試験を受けてもどこも採用してもらえず、安月給の賞与なしの契約教諭として、今この港南学院で現代文の教師をしている。

確かに、処遇に不満を持つ時もある。

だからといってもらえる給与で、生徒への接し方を変えたりはしない。

これ以上話していると頭が痛くなると思って、仁科先生はその場を去った。

そしてふと職員室の窓からグラウンドを見ると、陽一と文麿が草むしりをしていた。

「あの子達いつのまに・・・」

ついこの間まで犬猿の仲だった陽一と文麿が、一緒に草むしりをしているのである。

興味を持った仁科先生は、早速グラウンドへと降りていった。

「一ノ瀬君、徳永君」

二人は仁科先生の声に気付き顔を上げた。

「どうしたの仲良く草むしりして」と聞くと

文麿はふてぶてしく「速見さんがやれって言うからさ。一週間に一度だけ昼休みに当番でやらなきゃいけないんだよ」と言った。

仁科先生は文麿の成長に驚いた。

つい最近まで文麿は、どうしようもない不良だったからである。

「そじゃあ私も手伝ってあげる」仁科先生も加わって草むしりを始めた。

そんな仁科先生に陽一は「いいよ先生。服汚れるよ」と優しく声を掛けた。

「いいの」と仁科先生は言って、黙々と生徒達と草むしりを始めた。


所定の範囲の草むしりが終ると、「じゃあな。俺、屋上で休憩してくる」と言って文麿は去っていった。

陽一と仁科先生は、3塁側のベンチに腰掛けて、グラウンドを見つめていた。

「監督見つかりそう?」

「今度のミーティングで速見さんが結果を言うと思うんだけど、噂で聞くからには多分駄目だろ」

「そうなの。折角ここまでやってきたのにねえ」

「多分速見さん仕方ない下級生の時代に試合が出来ればいいって言うよ。だけど俺あの人に野球の試合させたいんだよ」

「そう・・・」

「本当思うようにいかないなあ。野球部作るのがこんなに難しいなんて今まで考えた事なかった」

「うん、でも・・・いい経験なんじゃない?ただ試合するだけよりも、こうやって一から積み重ねる事で、徳永君にとってもプラスになってるんじゃないかな。きっと社会に出たら今の経験が役立つ日が来ると思う」

「だといいんだけど」陽一は少し疲れた様子だった。

「私もこんな事言ってても、なかなか人生思うようにいかなくて・・・。」

「何で?教師じゃん。立派じゃん」

「いろいろあるのよ。正教諭にもなれないし・・・いつクビ切られるか・・・。あっごめん愚痴っちゃった。先生がこれじゃ駄目だね。じゃあ休み時間も終わるから、もう行くね」と言ってベンチを立った。

すると陽一が「仁科先生」と言って、呼び止めた。

仁科先生が振り返ると、陽一は「先生は何で教師やってんの?」不意に質問をした。

陽一はいつも突然で人を驚かせてしまうのだ。

「えっ・・・」

仁科先生はいつもの恵と同じように陽一の言葉に困ってしまった。

「愚痴ってもいいよ。人間なんだから。その前になんで教師やっているの?愚痴っても続けている意味って何?」

難しい質問に、仁科先生は黙りこんでしまった。


その夜仁科先生は、自宅のテーブルの上でパソコンを操作し、学級報を作っていた。

だがもう嫌になってきたのか「ああ!面倒臭い!」と言って、寝転んでしまった。

『先生は何で教師やってんの?』

陽一の言った言葉が頭から離れない。

「私・・・何で教師やっているのだろう・・・」

ふと高校時代の卒業アルバムを本棚から取り出し、開いてみた。

そこには7年前の仁科先生が写っていた。

それはまだ仁科先生が、人生に沢山の夢を抱いていた頃だった。

女優、アナウンサー、キャビンアテンダント、デザイナー・・・。

子供の頃から成績優秀で、長野県の田舎から横浜国大通うために横浜へやってきた。

だが大学では4年間サークル活動に興じ、都会に来て遊びグセがついてしまった。

そして卒業となると、とりあえず学部の関係で教師になった。

そして教師になって3年経つが、未だ年収300万にも満たない安月給の契約教員。

彼氏もいない。

仁科先生は自分が情けなくなって涙が出てきた。

そして「長野に帰りたい・・・」思わず言ってしまった。


次の朝、仁科先生はいつも通り通をしていたが、なんだか気が重かった。
そして港南学院高の近くの坂道を歩いていると、一人で通学している陽一を発見した。
「徳永君」仁科先生は陽一を呼び止めた。
「先生」
「昨日徳永君があんな事言うから寝れなかったよ」
陽一はそんなに真面目に考えてたのかと思ってびっくりした。
「ごめん先生、そんなつもりじゃなかったんだ。心配になって言ったんだよ。愚痴っていたしさ」

どうみても逆効果だ。

「一晩中考えたけど、答えがわからない。私なんで教師やっているんだろう・・・」

「オレが代わりに答えてあげようか」

「徳永君が?」

「答えは生活の為。違う?」

「そんな・・・それじゃあ・・・」仁科先生の脳裏にあの男性教諭達がぎった。

でも俺、先生好きだよ。俺のくだらない質問に真面目に答えてくれる先生も、この学校にいるんだってわかったよ」

仁科先生はこの陽一の言葉に、一瞬だけ教師をやっていてよかったと感じ、元気を取り戻した。

すると「徳永く~ん」という由香子の声が聞こえた。

由香子と恵がやってきたのだ。

「先生おはよう」恵は仁科先生に挨拶した。

「山野さん、手嶋さんおはよう」


そうだ。始まりの理由なんて大した事ないんだ。

一番大切な事は、今置かれた環境をどれだけやりがいを持って生きれるかなんだ。

確かに私は生活の為に教師をしている。

ハッキリ言って大した人間ではない。

教師だって人間だから、たまには愚痴ったり泣いたりもする。

だけど教師を続けるからには、仁科先生が先生でいてくれてよかったと言われたい。

頑張ろうかな・・・


そして4人は校舎の正門へと入っていった。今日一日の始まりだ。
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