5、仁科先生(3)
野球部は遂にミーティングを開催した。結局全員から顧問を断られたのだ。
「しかたない。お前らの時代までに試合できるようにしよう」速見は陽一の予想通り、諦めの言葉を発した。
そして部室はシーンと静まり返ってしまった。
「ったくよう!馬鹿教師ばっかだよ」文麿は怒り心頭だ。
すると陽一は「速水さん。どの先生にお願いしたのですか?」と質問した。
速見は疲れた表情で、校長からもらったリストを陽一に渡した。
「お願いして駄目だった先生は塗りつぶしたよ」
ほとんど塗りつぶされて真っ黒だが、塗りつぶされていない教師も数名いた。その中に、仁科美幸の名前があった。
陽一は「まだいるじゃないですか」と速見に言った。
「いないよもう・・・。ああ女の先生は声掛けてないよ。どうせ野球知らないだろ」
「女じゃ駄目なんですか?」
「だって無理だろ」速見はこいつ何言い出すんだと、驚いた表情を見せた。
「試合をしたいんじゃないですか?作戦を練ったり、技術指導してほしい訳じゃないですよね」
「そりゃ・・・そうだけど・・・」速見にとっては全くの想定外な意見だった。
すると「女でいいよ。下手に野球知ってる奴はムカつくから」と今度は真が切り出した。
「確かにそうだ。ろくすっぽ野球しらねえくせして、スイングがどうだこうだとか言われたらむかついてくる。俺殴るかもしれねえ。」文麿も賛成。
「ありじゃないですか。反対する理由もない」司も賛成。
「じゃあ賛成の奴、手を上げてくれ」速見は多数決を取った。
すると全員が手を上げた。
「よし。女に掛けてみるか」速見は決心がついた。
すると「速見さん、仁科先生がいいです」と陽一は咄嗟に言い出した。
速見が理由を尋ねると、陽一は「勘です」とキッパリと言ってのけた。
「う~ん・・・。わかったお前の勘よく当たるしな。2―Cだったら徳永と一ノ瀬のクラスだな。お願いしてみてくれ」
そして白羽の矢は、教師生活若干3年の25歳彼氏イナイ歴2年の仁科美幸に立ったのだ。
放課後2―C組の教室に、陽一は仁科先生を呼び出した。
やる気のない教師達にむかついていて、職員室に入る気持ちになれなかった。
そして2―Cの教室に残ったのは恵だけだった。
文麿は仁科先生との交渉を辞退した。
話の内容によって、自分がキレてしまって話を潰したらまずいと思ったのだ。
由香子には何も言わなかった。しゃしゃり出られたら困るからだ。
だが恵だけは、陽一が仁科先生に顧問をお願いすると聞いていたので、なんとなく興味本位で教室に残っていた。
ガラッと教室の引き戸が開くと、薄緑のブラウスを着た仁科先生がやってきた。
「どうしたの徳永君」
陽一はいきなり「先生、実は野球部の顧問になって欲しいんだ」と言った。
「えー!」仁科先生は、前置きの無い陽一のお願いにビックリした。
恵はあわてて「徳永君!いきなり言ったらビックリするじゃん!」と言って、陽一の悪いクセを注意した。
「野球部???手芸部とかだったらわかるけど・・・野球部!!!!」仁科先生はパニックになったが、陽一はキッパリと「はい!本気です!」と言った。
「私野球知らないし、女だし!それに・・・野球のユニフォーム着たくない・・・」仁科先生は若干ながらの乙女心を見せた。
陽一の言動を見るに見かねた恵は、遂に耐え切れず言葉を切り出した。
「先生とりあえず私が事情を説明します」
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