4、交わした約束(7)
真はピッチャーマウンドに立ってあたりを見渡した。
そして「また野球をやります。宜しくお願いします」と言って、グラウンドに深く礼をした。
その時バッ!とナイター照明が付いた。
真は驚いてあたりを見回すと、暗闇から真と同じくらいの背丈の男がやってきた。
それは港南学院のユニフォームを着た陽一だった。
陽一は「照明が直ったんだよ」と真に言って笑った。
「陽一・・・」
そして陽一は真に「お前が来ると思っていたよ」と言った。
「・・・どうしてだ」
陽一は「俺達は元バッテリーだからだよ。お前の考えている事は俺の考えている事と一緒だ」と話し出した。
「あのスケートの日に真が『一緒の高校に行こう』と言ったと俺はずっと思っていた。しかし思い出したんだ。お前はあのスケートの日『一緒に港南に行こう。そして甲子園だ』と言ったんだ」
真はその言葉をしっかりと覚えていた。
「だからお前は無意識に川崎から遠い横須賀のこの港南を選んだ。俺もそうだ。編入先はここじゃなくてもよかったんだ。きっとその時の約束を心の片隅で覚えていたんだ。そしてあの時の約束を果たす為にここで再び出会ったんだ・・・」
真は感極まった気持ちで、グランドを再び見つめなおした。
そして今まで閉ざしていた自分の気持ちを初めて言葉にした。
「・・・野球は最高だよ。土の香り・・・。芝生の香り・・・。野球を無くした自分には何も無い。ずっと心に穴が開いていた。でも・・・今このグラウンドがその心の穴を埋めてくれた」真はそう言って、陽一に微笑んだ。
「もう一つの約束。甲子園か。まあそれは難しいかもしれないけど・・・だけどまた一緒にプレーできるんだな」そう言って陽一も真と同じように、照明のあたったグラウンドを見回した。
すると「無理じゃないよ」と暗闇から声が聞えた。
速見だった。
速見は両手にユニフォームを持って現れた。
「速見さん」真は驚いた。
「徳永も入り、遠山も入り・・・。なんか甲子園が近く見えてきたんだよ」そう言って笑いながら速見は真に背番号7のユニフォームを渡した。
そして夜空を見上げながら「試合なんてもう諦めていた。これで俺の野球も終わりかと思っていた。だけど・・・神様っているのかなあ?」そう言って陽一と真に微笑んだ。
「いますよ・・・きっと」と陽一は笑って言い、真は小さく頷いた。
「さあ遠山ユニフォームに着替えろ。記念撮影だ。みんな出てこい!」速見は腕を高らかに上げた。
「えっ?」真は珍しく戸惑った。
すると暗闇の中から、「9人だ!試合だ!」と叫びながら全部員が走ってきた。
そして夜空に9発のロケット花火が打ちあがった。
野球部の部室には輝かしい栄光を証明する写真が多数飾られている。甲子園大会の優勝の記念写真。
国体優勝の記念写真。
そして翌日その傍らに新たな記念写真が飾られた。
主将の速見を中心とした野球部復活の記念写真。
速見の両横には、4年ぶりに再会を果たした笑顔の陽一と真。
学校が作ってくれたんじゃない。
全員で協力しあってここまで来た。
そして今日ここ横須賀に、復活の狼煙が上がったのだ。
夏の甲子園大会22回出場 優勝3回
選抜甲子園大会18回出場 優勝2回
輝かしい港南学院高校野球部の歴史に、また新たなる歴史が刻まれようとしていた。
