フォーエバー・フレンズ -353ページ目

6、そして初試合(2)

野球部の上達ぶりは凄まじい。

修二は、あれほどワンテンポ遅いと陽一に指摘されていたが、捕ってからスローイングまで時間は、目で見て分かるほど改善された。
そしてワンステップ多かったフットワークも、完全に解消された。
この一ヶ月半で、修二は完全に名手として生まれ変わった。
そして司も修二に刺激されたのか、肩こそ問題あるものの一二塁間での守備範囲は大幅に拡がった。頑張って練習したため、打球反応が向上したのだ。
陽一は、速見と一緒に練習風景をバックネット裏で見つめていた。
「どうした徳永、考え事か?」
「ねえ速見さん、俺達次に何を目標にすればいいんでしょう?」
「目標?そうだな甲子園出場かな」
「本気でそれを考えていいんでしょうか?甲子園となれば正式な監督も必要になりますし、選手の数はもっと必要ですし。これ以上に上の事を望んでもみんなついてくるでしょうか?」
すると速見は陽一に「お前はなぜ頂点を目指せたんだ?」と聞いてきた。
「それは・・・」と陽一は返答に困った。
「勝てたからじゃないか?」
「・・・そうです・・・」
「じゃあ勝ってから考えよう。負けたら負けたでナニクソって思うかもしれないしさ。まず一試合やってみようよ」と速見はいつものような笑顔でそう答えた。
「やっぱり速見さんには勝てないや」と陽一が心の中でそう呟いた時、仁科先生がグラウンドへと走ってきた。
そして仁科先生は「練習試合決まったよ!」と大きな声で全員に言った。
するとグランドから「おお!」という声が沸き立った。
速見はものすごく期待した表情で「相手は何処ですか?」と仁科先生に聞いた。
すると仁科先生は「武南高校よ」とアッサリ答えた。
その仁科先生の言葉に、部員の表情が凍りついた。
速見は自分の聞き違いかと思い「先生。もう一回言ってください」と言って再度確認したが、仁科先生は「武南高校だよ」と言ってニッコリと笑った。
今度は陽一が仁科先生に「先生何かの間違いじゃない?武南って相模原の武南?」と確認してきた。
しかし仁科先生は表情を何一つ変えず「そうよ相模原の武南だよ」と言った。
すると文麿が「先生!武南ってどんな高校か知ってんのかよ!選抜準優勝高だぞ!」と言って、サードベースから走ってきた。
「そうなの。よかったじゃん。強い学校で張り合いが出る!」そう言って仁科先生はガッツポーズをした。
仁科先生は野球の事は全く何も知らない。
だから選抜準優勝の重みなんて何も分からない。
ティーバッティングをしていた真は手を止めてやってきた。「先生それ何繋がりだよ?」
「大学の先輩がいてね、その人野球部だったんだけど、今武南の野球部のコーチやってるのね。それで昨日一緒に飲みに言った時練習試合できる?って聞いたら、いいよって言ってくれたんだ。それで来週の月曜日にこのグラウンドでする事に決定!」仁科先生は拳を高く上げた。
もしそれが本当なら大変栄誉な事だが、部員はみんな半信半疑だ「そんな上手い話あるかなあ」といった感じだ。

陽一と恵は今日も汐入駅前で待ち合わせをしていた。
そっか。遂に試合かあ。本当にここまで大変だったね。でっ、いつやるの?」
「来週の月曜日の午後3時。確か山野はアルバイトだったよな」
「ううん。確かその日バイト休みなんだ。だから応援しに行くよ
すると陽一は恵に「頑張るよ」と言った。
だが、恵は陽一が何かうかない顔しているのに気付いた。
「どうしたの?」
「うん・・・なんか引っかかってんだなあ。相手が武南高校なんだよ」
「相模原の?それって強いの?弱いの?」

そうだった。山野も野球オンチだったんだ。

「選抜準優勝校なんだ」
「それって凄いの?」

駄目だ。全く話にならない。


「春全国大会で、2位になったんだ」と陽一は恵に解り易く言った。
「すごいじゃん。それ」
やっと事の重大さに気付いたようだ。
「うん小林っていうエースがいてさ、プロのスカウトも注目している」
「やったじゃん!これってチャンスじゃない」
「うん・・・そうなんだけど、そんなチームがウチなんかと試合やるかな」
「仁科先生がそう言ったんでしょ?」
「まあそうなんだけど」
陽一の表情は晴れなかった。


金曜日仁科先生は部室に全員を集め、みんなの前で謝罪をした。
昨夜その武南高校のコーチから連絡があったそうだ。
酒の勢いで言ってしまったそうで、その事を言うと武南の総監督から「そんなクズチームに選手を出せるか」と言って相当怒られたらしい。
「ごめんなさい」仁科先生は腰が折れ曲がりそうなほど頭を下げた。
文麿は相変わらず高圧的な態度で「じゃあ俺達どうすんだよ」と言った。
そして何故か由香子までこの席にいた「そうだよ。折角ポスター作ったのにほら!」
そのポスターには、陽一と武南のエース小林が火花を散らす写真に、『港南VS武南 世紀の一戦』と書いてあった
由香子が写真を合成して作ったのだ。
これじゃまるでボクシングの試合だ。
「由香子、勝手にそんなもん作るなよ」陽一は由香子の行動に呆れてかえってしまった。
すると由香子は「だって速見さんがいいって言ったもん」と言って開き直った。
「で・・・どうなるのですか?キャンセルですか?」速見は仁科先生に心配そうに聞いた。
「うん。でね約束した以上仕方ないと言って、向こうの総監督が2軍をだしてくれるって」
文麿は黙っていなかった「はあ?二軍だあ?なんだよ完全にナメられてんじゃん。最初からおかしいと思ったんだ。これだから野球しらねえ奴は困るんだよな」と言って仁科先生をまくしたてた。
「そうよそうよ」と由香子もそれに便乗した。
その時「うるせえな。お前ら黙れ!」とドスの聞いた声がした。
部室の片隅でパイプ椅子に座って、バットを磨いていた真だった。
だが文麿は黙らなかった「真、お前だって悔しいだろ?リトルリーグ世界大会で優勝したんだろ?プライドってあんだろ?」と真に言った。
だが真はバットを持ったまま立ち上がり「うるせえつってんだろ!黙んねえと痛い目にあわせんぞ」と怒鳴りつけ、真は文麿と由香子を睨み付けた。
「やめて!お願い!喧嘩しないで・・・お願い・・・」仁科先生は泣き出してしまった。
そして「みんなに喜んでもらいたくて・・・。・・・これは約束だから・・・ごめん。この試合が終ったら私辞めるから・・・みんなにもう迷惑かけないから・・・」仁科先生は泣きながら、部室を飛び出して行った。
しばらく部室の中はシーンと静まり返った。
すると真が静けさを裂くように、言葉を切り出した「おい文麿2軍だっていいじゃねえか。今までずっとヘンテコ教師に総スカンくらってさ、ついこの間まで試合できなかったんだぞ。俺達の為にここまでやってくれる先生はあの先生だけじゃねえか」と言った。
しかし文麿はまだ納得がいかなかった。
「真にもプライドってあんだろ。お前小林からリトルリーグ時代ホームラン打ってんだろ。俺は悔しいよ。選抜準優勝と言ったってこんなにナメられてたまるか・・・」と目を赤くした。
「文麿、それは5年前の事だ。今の小林はあの頃の小林とは違う。悔しいなら二軍を徹底的に叩きのめして、あわてて一軍が駆けつけるぐらいにしてやればいいんだよ」と真は文麿に言った。
すると陽一が「真の言うとおり、1軍を引っ張り出させりゃいいんだよ。速見さん、今回はコールドゲーム無しで行きましょう。コテンパにやって、帰れなくしてやりましょう」
速見は陽一の言葉にゆっくりとうなずいた。
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