フォーエバー・フレンズ -351ページ目

6、そして初試合(4)

職員室、仁科先生はまだショックから立ち直れないでいた。

もう野球部の顧問なんて絶対にやらないと思っていた。


私に野球部なんて所詮無理だったんだ。やっぱり野球知っている人がやるべきだった。


そう思いながら黙々と仕事に打ち込んでいた。
でも仁科先生は、仕事に集中できないでいた。
何故なら、バットから放たれる金属音が、さっきからずっと鳴り響いているからだ。
「いい気味。コテンパンにやられちゃえ」
すると今度はワーッという歓声があがった。
仁科先生は不安になってきた。
2軍といえども相手は名門校だ。
本当にコテンパにやられているんじゃないかと思うと、いてもたってもいられなくなってきた。
そして仁科先生は我慢できずに、グラウンドを覗きに行った。

「山野さん」一塁側の恵を見つけて、仁科先生は声をかけた。

「あっ先生!」

「どうなの?負けてるの?」

「80で・・・」

「そうか・・・やっぱり名門校は2軍でも強いんだね」仁科先生は悪い事をしたと思い、少し反省した。

「勝ってるの!」恵は小さくピョンピョンと飛び跳ねながら喜んで言った。

「そう。やっぱりもっと弱いチームの方が・・・えー!勝ってるの?」仁科先生の目は黒目が飛び出しそうになった。

スコアボードを見ると3回裏で80港南学院の圧倒的なリード。

「うそ・・・本当なの!」

「キャー!」仁科先生と恵は手を取り合って喜んだ。

そして仁科先生は1塁ベンチへと向かった。

すると速見が「先生!退部届受けとれませんから」と言って笑顔で手を上げた。

「今コテンパンにやっつけてる最中だよ」陽一もベンチに座り、待ってましたとばかりに仁科先生に声を掛けた。

その時カキーンと音がした。ライナー性のあたりは左中間を突き破った。打ったのは文麿だった。文麿は一塁ベースを駆け抜け、そして二塁ベースも駆け抜けた。

「回れ!回れ!一ノ瀬回れ!」みんな大声を上げながら、手を回した。

どんどん加速していく俊足の文麿は、三塁ベースに思いっきりヘッドスライディング。

走者一掃のタイムリースリーベースだ。

そして文麿は三塁ベースを拳で思いっきり叩いて「よっしゃ!」と叫んだ。

これで100本来ならコールドと言いたいところだが、速見は最初に相手チームにコールドはやらないと約束していた。

この港南打線を止めないかぎりは、武南は帰れないのだ。

もちろん照明も完備だから暗くなっても試合は続けられる。

すると古屋監督が、港南ベンチへやってきてた。

そして武南ベンチを見てニヤリと笑い「おい、呼び出しているぞ」と言った。

真も武南のベンチに目をやると、コーチらしき人物が携帯電話で連絡を取り合っていた。

するとそのコーチは驚いた表情を見せ、すぐさま電話を切り、港南ベンチへとやってきた。

「あの・・・顧問の方いらっしゃいますか?」

「はい、私です」仁科先生が応対した。

武南のコーチは困った表情で「ちょっと力に差があるので、名助っ人を入れたいのですが、いいでしょうか?」

仁科先生はキョトンとした表情で「それはかまいませんが・・・。どなたですか?」

「うちのエースの小林です」

陽一はネクストバッターボックスから、その「小林」という名前をしっかりと聞き取った。

「はい。どれくらいかかりますか?」

「もう校門の前にいます」

すると3塁ファールグラウンドから、陽一や真と同じくらいの背丈の、武南のユニフォームを着た選手があるいてきた。背中には『背番号1』武南高校のエース小林である。

スポーツ紙にはしょっちゅう掲載されている、神奈川県ナンバーワンの右腕である。

突然の大物の登場に、どよめきが起こった。

「なんで・・・小林・・・相模原からどうやって来たんだ」陽一は久々の宿敵を見つめた。

すると小林はゆっくりと一塁ベンチの方へむかってきて、そして陽一へ声を掛けた。

「ひさしぶりだな徳永」

「こんちは・・・」陽一は帽子を少しだけ取り、挨拶をした。

「遠山、お前も元気そうだな」

「こんちは」真もベンチにすわりながら軽く会釈した。

コーチが「小林悪い投げてくれ。手に負えんのだ」とすまなそうに言うと、小林は「今日練習始めようと思ったら、2軍が港南に試合に行ったと聞きました。だから後を追いかけてきました。なんで港南と試合すると言ってくれなかったのですか?総監督も何やってんのかなあ」とふてぶてしく言った。

するとコーチは「まさかこんなに強いなんて・・・」とうなだれた

「俺この高校が強いって知っていましたよ。だってこの徳永って奴と遠山って奴の二人は世界大会優勝してるんですよ。こいつらが入部したってもう2週間前に情報つかんでましたからね」物凄い上目線に、コーチも完全に圧倒されていた。

「じゃあちょっとウォーミングアップする時間を下さい」コーチは仁科先生にお願いすると。

「いいですよ。もう温まっていますから。下の公園で早乙女とやってきましたから。ほんとカーンカーンってお祭りでもやっているのかと思いました。困りますよ。他校の情報は、ちゃんとつかんでおいてくれないと」と言ってコーチを睨んだ。

そして小林は仁科先生に一礼をして、「キャッチャーを塩尻にえて早乙女。ピッチャー永井に替えて小林でお願いします」といってマウンドへ向かって歩き出した。

あまりにも上から目線の為、仁科先生の方が恐縮してしまった。

小林はマウンドをスパイクで軽くならし、セットポジションで投球練習を始めた。
写真素材 PIXTA
(c) Kohei写真素材 PIXTA

小林の右手から振り下ろされた球は恐ろしい程速いストレートだった。

その小林の投げる球に、見物している生徒達からどよめきが起こった。

そのストレートを陽一はじっと見ていた。


みんな良く見とけよ。これが甲子園に行く投手だ。俺達は決して強くないんだ。


最後にスライダーを投げると、恐ろしい程の変化を見せた。

その変化はホームベース手前で、急にカクンと方向変換するようだ。

そして2番打者の修二が左のバッターボックスに入った。

小林は見てろとばかり全力投球し、容赦なく修二に襲い掛かった。

一球目外角一杯のストレートでストライクをとり、2球目は内角高めのカーブ。完全にボールコースからストライクに入ってくるカーブを見逃してしまった。これで2ストライクだ。そして最後内角低めボールになるスライダーに修二は空振りしてしま、三振した。

そして小林は次の3番打者の陽一にも襲い掛かった、小林はスライダーから入ってきて、陽一は見送ってストライク。

陽一はバッターボックスでうなだれた「だめだ。球が見えない」

次は内角高めのストレートで、陽一の得意なコースだった。

いきなり陽一の好きな球がやってきたので、陽一は完全に異表をつかれてしまった。

そしてからくもバットに当てて、ファールとなった。

そして最後外角低めのスライダーで、陽一のバットは空を切った。

これで陽一も三振となってしまった。

次4番打者の真に初球内角高めのストレートが来た。

真の嫌いなコースだったが、真は小林の球があまりにも速かった為に、うっかり手が出てしまった。

そして真の打ったボールはホームベース上空に高々と舞いあがった。

そのままキャッチャーが捕ってアウト。


結局9回まで試合をして、8回表に武南高校はなんとか2点を取り返した。
結果は102で港南学院の圧勝に終わったが、小林に全く歯が立たない後味の悪い試合であった。
最初から小林が投げていたら間違いなく完封負けであった。
試合後選手はどことなく元気がなく、あまり多く語らずにそれぞれ帰って行った。
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