6、そして初試合(3)
遂に月曜日がやってきた。港南学院高野球部にとって、3年ぶりの戦いが始まる。
そう、クリーム色のユニフォームに濃紺の帽子とアンダーシャツの、かつての名門チームが帰ってきたのだ。
当初武南の小林がくるという噂が流れ、野球部グラウンドの周りは人でごった返していたが、来ないと知るとサーッと人だかりは消えていった。
それでもやはり野球は面白いので、ギャラリーは決して少なくない。
そんな時、他校の制服を着た女子高生がやってきた。
スカジョの制服をきた茜がやってきたのだ。
茜の登場にあたりは「おお。スカジョじゃん」と言ってざわついた。
茜は何度も頭を下げながら「すみません。すみません」と言って、人だかりを掻き分けていった。
「茜!こっちこっち!」恵は人ごみの中の茜に大きく手を振った。
「恵!」茜は恵のいる所へと駆けていった。
すると男子生徒数人の応援団が「フレー!フレー!こーうーなーん!」と声援を送った。
それを見て茜は「いいなあ恵の学校・・・応援団があるんだね。ウチ女子高だからこういうの無いもんなあ」と言うと、恵は「ウチの学校応援団なんてないよ、あれみんな由香子の歴代の元彼だよ。1週間前から、みんな集めて練習してたんだよ」と言った。
茜はズッコケてしまった。
そしてよく見ると由香子は学生服姿で、太鼓を叩いていた。
同じぐらいの体型の司の学生服を借りたのだ。
まさしく『由香子オールスターズ』だった。
速見がブルペンから投球練習を終えて帰ってきたところを見つけて、陽一は立ち止まった。
そして陽一は仁科先生がいない事が気になり、速見に仁科先生の事を聞いた。 すると速見は笑いながら一通の手紙を陽一に手渡した。
その手紙には『退部届』と書いてあった。
速見は笑いながら「おれも野球長いけどさ、先生に退部届もらったの初めてだぜ」と言った。
それを見た陽一も仁科先生を可愛く思ったのか、思わず笑ってしまった。
グラウンド内は縦シマ模様のユニフォーム武南高校が守備練習を開始していた。
陽一と真は武南高校2軍の守備練習を息を呑んでみていた。
すると茜以外のお客がやってきた。鎌倉リトルの古屋監督だった。
「陽一、真、いよいよだな」
「監督!」二人は口を揃えた。
「今日はお前達の再出発だ。わざわざ鎌倉から来たんだから、勝ってくれよ」と言って二人の肩をドンと叩いた。
武南高校のキャッチャーが陽一達のいるベンチにやってきて「練習終りました!有難う御座いました!」と深く礼をし去っていった。
続いて港南学院の守備練習だ。
港南ナインがそれぞれのポジションへ散っていった。
ファースト側で試合を見守る恵は、少しずつ鼓動が高鳴ってきた。
いよいよ始まるんだ。
その緊張は茜にも乗り移り、気がつけば手の平に汗をかいていた。
ノックバットを振るのは、主将の速見だ。
その速見は大きな声を出しながら、各内野手へノックを行った。
地味だが軽快な球捌きのショートの修二に、ダイナミックに前進し華麗にスローイングをするサードの文麿。
小回りのきいた二塁手の司。長身一塁手の裕輔。陽一によって鍛えられた内野手達だ。
今主将の速見はその成長を目の当たりにして、目頭を熱くしながらノックをしている。
外野手はレフトの真、センター陽一、ライト慎太郎、その黄金の外野手達はお互いに遠投をして距離感を確かめあっている。
そして一通りノックが終わり、最後「キャッチャー!」と叫び、高いキャッチャーフライを打ち上げた。
キャッチャーの宮城はその高く上がったボールを、懐でしっかりとキャッチした。
一通り守備練習を終えた港南ナインは、一斉にベンチへと引き上げてきた。
校舎の時計は午後3時を差した。いよいよプレーボールの時間だ。
港南ナインはしっかりと円陣を組み、速見が「絶対勝つぞ!」と叫ぶと、全員グランド中に轟く程の大きな声を出した。
「行くぞ!」と言って両チーム一斉にホームベース上に集まり、帽子を取って礼をした。
そして港南ナインは各ポジションへ掛け足で再び散っていった。
その姿を見て見物している生徒達から歓声と拍手があがった。
この二ヶ月間恵は、陽一の傍で応援し続けてきた。
飛行機事故で両親を失った事で、野球をする目的を失い立ち直れずにいた陽一。
たった3人の野球同好会でも、俺には野球の血が流れているといって入部した陽一。
速見の為に試合をしたいと、ひたむきに頑張っていた陽一。
交わした約束を信じて、真の入部をひたすら待ち続けた陽一。
本当に二ヶ月間いろんな事があった。
そして仙台学園で一度挫折した陽一は、今再びこのフィールド上に立っている。
その陽一の姿を見て恵は、何故か涙が溢れ出してきてしまった。
すると茜は恵に、そっとハンカチを手渡した。
恵自身は、まだよくわかっていないが、茜にはもう分かっていた。
恵は、陽一の事が好きなんだと。
センターを守る陽一は、恵に向かって右手の親指を立てて、ウインクをした。
陽一のその姿に、恵は泣きながら笑った。
「プレイボール!」主審の手が上がった。
マウンドに立つ速見は大きなワインドアップから、しなやかなフォームで思いっきりストレートを投げた。
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