フォーエバー・フレンズ -350ページ目

6、そして初試合(5)

試合を終えて、陽一と恵は今日も一緒に帰った

そして今日は同じ方角へ帰る由香子にバレないよう、少しだけ時間調整をした。

恵はこんな事が由香子にバレたら大変だと思い、常に罪悪感を感じているのだがどうしてもこの関係が止められないでいた。



ごめん由香子もう自分でもどうしていいかわからないんだ。



そして陽一と恵はいつものように横須賀駅で電車を待っていると、時刻は6時になっていた。

「なんで泣いてたんだ?」

「泣いてないよ」

「うそつけ。さっき試合始まる前に泣いてただろ」

「・・・わからない」

「俺こうやって親指立てただろ。元気出せって意味だよ」陽一は笑顔で親指を立てたポーズを再現した。

すると二人の話を割るように電車がやってきた。

二人は隣り合わせに座った。

電車が出発すると、恵は泣いていた事を陽一触れられたくない為、無理やり話題を野球の話に変えた。

「凄かったね。あの小林って人」

「まけたよ・・・」陽一はショックを受けているようだった。

「勝ったじゃん。102でしょ?」

「小林さんが最初から投げてりゃ02で負け。しかも一軍は小林さんと、キャッチャーの早乙女って人だけだ。一軍全部出されたら、もっと点とられていたよ」

「そうなんだ」

「よくわかったよ。自分達の実力がさ。もちろん俺の実力も。普通のピッチャーならバカスカ打つんだけど、本当にいいピッチャーから点が取れないんだよ。まだまだ駄目だな」

「でもいいじゃん。初の試合で勝ったんだから」

「まあ・・・確かに・・・それに勉強にもなった」

ガタンゴトンと二人は電車に揺られていると、恵の下車駅鎌倉が近づいてきた。

「なあ。今日俺んち遊びにこないか」

「えっどうして

「別に意味なんて無いよ。遊びに来ないかって言ってるだけだよ

恵は少し迷ったが、陽一の目が寂しそうに見え、断れなかった。

そして携帯の時計を確認すると「じゃあ1時間だけ」と言った。



陽一の家は大船駅から歩いて10分程のところにある10階建ての茶色いマンションで、3LDKの広さである。

エレベーターを階で降りると、すぐ陽一の住む部屋があった。

恵は少し緊張しながらも、陽一の後に続くように家の中へ入って行った。

パッと明かりをつけると、ちょっとこじゃれたダイニングキッチンがあったが、見渡す限り物が全く置いていなかった。

「へえ。キレイじゃん」

「何もしないからだよ。メシも作らないしさ。帰ってきたら洗濯機に服突っ込んで、終わったら乾燥機かけてさ。あとは寝るだけ」

「お風呂は入ってないの?」潔癖症の恵は汚い物をみるような目で陽一を見た。

「部活終わってシャワーするから、風呂場も使ってないよ土日だけかな」

恵は冷蔵庫を開けてみた。すると中身は空っぽだった。

この行動はまさしく女の性だった。

「何もないじゃん。喉渇いたらどうするの?」

だが陽一はあっけらかんと「水道水飲むよ」と言ってのけた。

陽一は野球に関しては恐ろしい程の完璧主義者だが、その他に関してはかなり無頓着であった。

恵はこのギャップ大きさの為に、陽一の事がたまに理解が出来なくなるのである。

「ごはんはどうするの?」恵はいろいろと聞き出した。

やはり男の一人暮らしには興味がある。

すると陽一はカーテンを開けて、恵を手招きした。

窓の外には鎌倉の町がベランダ越しに見えた。

「みろよ近くには『じょいふる』もある『バーミヤン』もあるし『リンガーハット』だってあるし、それに山野が好きな『コロンブス』だってある。これが俺の食堂だよ」と言った。

その陽一の言葉に恵は噴き出してしまった。


恵のツボだった。


単に外食してると言えばいいのに、かっこよく窓を開けて、夜の街を見せながらこれが俺の食堂だって・・・・。

かっこいいのか、かっこ悪いのかさっぱりわからない。



陽一は笑いながら今度は自分の部屋を見せた。
入って正面の壁にBzの特大ポスターがはってあった。
骨組みが無くマットレスだけの中途半端なベッドに、黒いちゃぶ台形のテーブル。
あとは腹筋台と鉄アレイ。通販でかったような筋トレの機材。
そして大きなテレビ台の上に、テレビと一緒に優勝トロフィーやメダルや記念写真が並べてあった。
「へえ。Bzが好きなの」
「ああ、聞いてて元気が出る。山野は何が好きなんだ?」
「レミオロメンが好き。・・・・ところでこのトロフィーや楯は?」
「左から小5の頃のリトル全国大会優勝。小6のリトル全国大会優勝。中一のシニア全国大会準優勝。中二の全国大会優勝。中三の全国大会優勝。そしてあのタンスの上に置いているのが、世界大会優勝のトロフィー」
恵は改めて陽一の凄さを知った。
「武南の小林さんとはずっとライバルだった。あの人厚木リトルシニアだったんだけど、俺達のチームといつも予選で争ってた。力はあったんだけど全部ウチのチームが勝ってたから、全国大会に一度も行けなかったんだ。それが選抜で準優勝するんだ。凄く練習してたんだろうなあ。今日小林さんの投げる球、全然見えなかったよ。今の俺じゃあの人を打てない」
陽一はそう言って、じっとトロフィーを見つめた。
恵は思い出したように口を開いた。
「今日ね、その小林って人が投げてた時私と茜と仁科先生の3人で、物陰でビデオカメラ回して小林さんをずっと撮影してたの」
「なっ・・・なんで???」今度は陽一が驚かされてしまった。
「原君がカメラ渡してきたの。お願いだからって。ちゃんとカメラアングルまで指定して」と言って、司のメモを陽一に見せた。
そこには簡単な人の絵がかかれてあった。このように撮れという指示だったのだ。 
それを見た陽一は、司の決意のようなものを感じ取った。

「司・・・」

陽一は、そのメモ紙を見続けた。
にほんブログ村 小説ブログ 学園・青春小説へ
にほんブログ村