フォーエバー・フレンズ -343ページ目

8、予選大会に向けて(2)

無事に予選会の届出が済み、後は6月30日の抽選会を待つのみとなった。

しかし怒り心頭の野球部は遂に事を起こした。

花壇の手入れを終えた校長を、数人の生徒が取り囲んだ。

真を筆頭とする野球部員だった。

「校長、ちょっとツラ貸してもらおうか」真が恐ろしい目つきをして言った。


そして校長はそのまま野球部の部室に監禁されてしまった。

「お前、またやらかしただろ!」真が怒ると本当に怖い。

「なんの事だ」

「どぼけんな!連盟からきた用紙隠したのお前だろ!」

「知らんな」

すると真はまるで取り調べの刑事のように「守衛の親父口割ったぞ。お前、仁科先生宛ての手紙は全部自分に回せと言ったらしいな」と言った。

「・・・」

校長は黙り込んだ。

「どうなんだよ!言えよ!」

真は容赦なく校長を追及した。
すると司が封筒を持って現れた。
「遠山君あったよ!連盟からの封筒」司は連盟から来た封筒をみんなに見せた。

校長が監禁されている間、司は校長室の中を捜索していたのだ

「クロだな。さあ訳を話してもらおうか」真はそう言いながら、パイプ椅子にどっしりと座った。

まさしく刑事ドラマのようであった。


校長は部室から見る夕焼けを見た。そして決心したかのように話し出した。
「・・・・もう野球はこりごりだ・・・」

「なんでだよ」真はさっきと打って変わって、冷静な口ぶりで尋ねた。

「君達は3年前の真相を知らないだろ・・・。そう我高は名門高だった。当時私は教頭だったんだけどね、まあ野球部の実態は君達が思うほど綺麗じゃなかったんだよ。もちろん生徒には罪はない。問題は保護者なんだ。高校野球ってのは保護者が我が子をレギュラーにしてもらいたい一心で、監督やコーチに裏でお金を渡したりするものなんだよ」

部員達は、黙って校長の話を聞き続けた。

「当時の校長先生はその賄賂体質に業を煮やしてして監督を解雇したんだよ。そしてコーチをしていた者が監督になった。結局そいつの体罰が原因で、マスコミに騒がれてしまったんだが、別に悪い男じゃなかったし体罰といっても少し頭をコツンとやっただけだった。マスコミに悪口を吹き込みまくったのは、賄賂を贈っていた保護者達なんだよ」
全員ずっと黙って、聞いていた。
「チーム状態はもうむちゃくちゃ。全監督に払った金を返せとか散々言われてね。結局その年は2回戦敗退で野球部は崩壊。前校長も責任を取らされてクビ。新監督も辞めてしまった。そして前監督に賄賂として贈られた金や贈答品も、学校側が代わって保護者に返済したんだ」
すると速見が前に出てきて「校長、でもその時の野球部と僕達のこれから作る野球部は違います。僕達は絶対にそんな事はしません」と言うと、校長は速見を見つめた。

「速水君は次で卒業だろ。でも野球部は作ってしまえばその後も残るんだよ。20年30年とね。私は定年まで6年間ある。もし野球部を完全に軌道にのせれば、あと6年間野球部の面倒を見るんだよ。私はハッキリ言って自信が無い。あんな事件をみてしまった以上は・・・」
校長の言葉は何故か説得力があり、全員言葉が出なかった。
「とりあえず隠れていろいろとやった事はお詫びする。申し訳ない」校長はみんなの前で深く礼をすると、部室から去って行った。
「なんかさ・・・胸のモヤモヤがとれたよ」と真が言った。
真は何故校長がこんな事をするのか、やっと理解する事が出来た。


次の日校長先生は記章室にいた。

そこには港南学院の栄光の軌跡が沢山飾られてあった。

そしてその栄光の遺産である、甲子園の優勝旗を見ていた。


『思い出してくださいあなたの高校時代の事を。学校の先生ってそんなもんでしたか?』

古屋監督の言葉が、頭から離れなかった。
そして黙ってその甲子園の優勝旗を見続けた。


6月30日いよいよ神奈川県大会の抽選の日だ。
抽選会へ向かったのは仁科先生と速見だった。
そして古屋監督と残りのメンバーは、グラウンドでの練習となった。
古屋イズムを少しずつ吸収している野球部の今日の練習メニューは、バッティング練習だった。

古屋監督の指示はバッティングマシーンをマウンドから手前に置いて練習する事だった。

これは小林対策の練習だが、古屋監督はどうも納得いかない様子だった。

バッティングマシーンを手前に置けば、確かにボールは速く見える。

しかし小林の球とは違うのである。

古屋監督は頭を掻きながら小林対策を模索していた。

すると「徳永く~ん!」というまた由香子の黄色い声援が聞えてきた。

余計集中できなくなって、古屋監督はグラウンド周りを歩き出した。


陽一の打球は今日もレフトフェンスオーバーを連発していた。
だが陽一も一回打つごとに考え事をしていた。
やっぱり小林の球じゃないのだ。
バッティングマシーンを近めに設定しても、全然違う。
まず高低差がないのだ。小林は長身であり、あの投げ下ろしてくる威圧感がバッティングマシーンでは再現できない。
そして食い込んでくるようなノビも再現できない。
「司!もういい!」そう言って陽一はバッターボックスを外れ、一塁ベンチへ向かった。
「徳永君ナイスバッティング!」由香子は陽一に声を掛けた。
「ありがとう」陽一はポツリと言って、一塁ベンチに座り下を向いた。
由香子の横にいた恵は、浮かない陽一の表情が気になった。
「ダメだ。これじゃ小林を打てない」陽一はうなだれた。
次に練習していた真も10球程打って練習を止めてしまった。
そして陽一と同じように一塁べンチへ帰ってきた。
陽一が真を見ると、真は首を横に振った。
真も同じだった。やはり小林の球とは全く違う。


古屋監督はグラウンド周りをあてもなく歩いていた。
するとライトフェンス裏の、緑の生い茂った桜の木の下に立つ校長を見つけた。

「やあ古屋さん」

「どうも・・・」古屋監督は校長と一度喧嘩をしている為、そのまま通りすぎようとした。

「この桜の木、41年前私・・・いや・・・私達が植えたんだ」

「私達?」

「そう、41年前私はこの学校の野球部にいたんだ」

「そうだったんですか」

「港南学院が初めて甲子園に行ったあの年、最後に先生や後輩へ後を頼むよと言って、ここに卒業する部員みんなで桜の木を植えたんだよ」

すると古屋監督が「やはり野球をしていたんですね」と言い出した。

「わかるのか?」古屋監督のその言葉に校長は少し驚いた。

「わかりますよ。野球に感情的なのがその証拠です。もし3年前の事件が野球部じゃなくてサッカー部であれば、あなたは粛々と後始末をして終わったでしょう。だけど問題を起こしたのが野球部だから違った」

二人はしばらく大きな桜の木を見上げ続けた。
そして校長は若かりし日の思い出話を続けた。

「あの頃は夢があった。今グラウンドにいるあの子達のように。とにかく甲子園に行きたくて無我夢中になっていたなあ・・・」

古屋監督はずっと校長の思い出話を聞いていた。

「ずっと忘れていたよ。この桜の木の事を。あれ程の楽しかった思い出がありながら・・・ 古屋さんあなたの言っている事は正しい。41年前私が出会った教師はこんなんじゃなかった。その楽しい思い出を、私は今の子供達に与えてやれていないんだよ」

「校長、生徒達を信じましょうよ。奴らを信じてやって下さい。教師が生徒を信用できないで、教育なんて成り立ちませんよ」

校長はしばらく黙って、やがてゆっくりとうなずいた。


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