9、由香子の気持ち(1)
恵は、由香子への罪悪感を払拭したわけではない。
陽一と付き合う前も、そして今でも何か胸のつかえが取れないでいた。
恵は陽一の事を思うたび、由香子への罪悪感を募らせていった。
「ほっときなよ。内緒にして今のまんま陽一君と付き合いなよ」と茜は言う。
ハンバーグレストラン『コロンブス』の休憩室はきょうも恵と茜のお喋りの場となっていた。
「でも・・・やっぱり・・・」
「本当の事言えば、由香子って子絶対傷つくって」
だが恵は、こうやって嘘をついている自分が、汚くみえていた。
「嘘つくのも優しさだよ。どうせその子いずれ熱が冷めるって」と言って茜は休憩室を出た。
恵は由香子とは中学時代からの仲だ。由香子は今まで1ヶ月で熱が冷める人間だった。
その由香子が3ヶ月も・・・。由香子が本気で陽一が好きなことを、恵は知っていた。
そんな事を考えているうちに、恵はふと思い出したように気づいた。
この二日間由香子からメールが無い。
毎日2回は必ず由香子からメールがあったのに。
さらに昨日も今日も由香子とは話していないのだ。恵の頭に悪い予感がよぎった。
アルバイトを終えた恵は、汐入駅で陽一を待っている間、由香子へメールしてみた。
『なにしてるの?昨日今日とメールないじゃん』
だが、そのメールに由香子が返信してくる事はなかった。
しばらくして陽一がやってきたので、二人はいつものように一緒に横須賀駅へと向かった。
「由香子今日もグラウンドに来なかったぞ」と陽一は思い出したように言った。
「由香子に来て欲しいの?」と恵は少しだけ焼きもちを焼いた。
「いや、ただみんな不思議がっていた。司が練習の参加表つけてんだけど、面白がって由香子の名前も載せてたんだよ。そしたら7月6日まであいつ皆勤賞だったんだな」
恵はしばらく歩きながら考えた。
バレたかもしれない・・・・陽一と付き合いだしてからだもん・・・
「陽一、ひょっとして由香子に話した?」
「言ってねえよ。由香子どころか真にすら話してないのに」
次の日、教室で恵は由香子の事を見た。すると由香子は目線すら合わせようとしない。
放課後、恵は正門を出てアルバイト先へと向かおうとしたとき、野球部にはもういかないのか、一人で下校する由香子を見つけた。
恵は由香子を見つけると「由香子」と呼んで歩み寄ったが、由香子は恵を無視をする。
恵は「由香子、どうしたの」といって、由香子の手をつかんだ。
すると由香子は「触らないで!」と言って、恵の手を振り払った。
「由香子・・・」
そして由香子は恵を振り返り「嘘つき!大嫌い!」と叫んだ。
恵は言葉が出なかった。その通りだったからだ。。
「私七夕の日徳永君と恵が鎌倉駅にいるところ見たんだ。ひどいよ・・・私の事馬鹿にして・・・二人でそうやって私の事馬鹿にしてたんでしょ」由香子は目に涙を一杯に溜め込んで、そして足早に去っていった。
中学時代からの腐れ縁の由香子と恵の関係は、この日を境に終わってしまった。
恵も目を潤ませながら、バイト先へと向かった。
「由香子、嘘ついてごめん。だけど私は陽一の事がどうしても好き。ごめんなさい」
恵は由香子との決別を決めた。
7月12日の午後、等々力球場で港南学院は京浜工業と2回戦を戦っていた。結果は11―1の5回コールド勝ちであった。この日陽一と真のアベックアーチが飛び出した。
速見は一回裏に立ち上がり一点を取られるも、その後立ち直り得点を許さなかった。
2試合連続のコールド勝ちで三回戦進出。
『コロンブス』で着替えたばかりの恵と茜は二人同時にメールで試合結果を確認し、更衣室の中で二人手を取り合って喜んだ。
7月15日の午前、伊勢原球場で大磯東高校との3回戦。真の二試合連続の3ランホーマーが炸裂し、8―0の七回コールド勝ち。
速見は無難に完封シャットアウトで相手チームを抑えた。そしてこの日文麿がなんとホームスチールを決めたのだ。見事4回戦進出。
7月18日の日曜日、横浜スタジアムで厚木学園と4回戦。この日は港南学院の機動力が炸裂。文麿、修二、陽一、のスーパーカートリオで合計6盗塁を決めた。
そして最後は陽一の今大会4本目の本塁打でダメ押し。見事な満塁アーチだった。13―1で5回コールド勝ちで5回戦進出。
7月21日午前、終業式の日だ。相模原球場で鎌倉商業と5回戦。またもや陽一と真のアベック弾が炸裂。陽一は今大会5本目の本塁打で、真は今大会3本目の本塁打だ。
そして文麿も今大会第一号本塁打を放った。
9―1で7回コールド勝ち。恐るべき怒涛の力で遂に港南学院は準々決勝進出を果たしたのだった。
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