フォーエバー・フレンズ -342ページ目

8、予選大会に向けて(3)

仁科先生と速見が帰ってくると、部員が一斉に二人の周りに集まった。

速見が「決まったよ、決まったよ。初戦は横浜実業だって7月7日保土ヶ谷球場で9時から」と言うと、部員からどよめきが起こった。

中堅校のようだ。

すると校長と古屋監督がライトの方から歩いてきた。

しかし部員達は校長の事を冷ややかな目で見た。

校長は部員の前に立って「練習お疲れさま」と言うと、部員全員軽く頭を下げたが、真以外の部員は「あの事件はまだ終わってないぞ」という表情だった。

だが真だけは校長の事を許していた。

今まで大人達の汚さの洗礼を受け続けた真は、校長の気持ちを少しは理解できたのだ。

「えー・・・私に何か力になれる事はないかな?甲子園目指すんだろ?」

何を今さらと言った雰囲気の中、真が部員の間を縫って前に出た。

「校長、150キロバッティングマシーンを買ってくれねえか」と言った。

校長は少し考えて「検討してみよう」と言って、去っていった。

それから3日後150キロバッティングマシーンが港南学院野球部へ納入された。


150キロマシーンはうなりを上げていた。

恐ろしく速く、そしてノビも今までのマシンとは全く違う。
最初はだれもかすりもしなかった。

陽一や真ですら、最初空振りばかりしていたが、やがてだんだんミートするようになってきたのである。

そしてこの150キロマシーンの球質は以外にも小林と似ていた。

上から投げ下ろしてくるような角度こそはないが、ノビがありホップ気味に見えるところがまさしく小林の球質とよく似ていた。

そしてだんだんバッティングマシーンが繰り出す、小林の球にタイミングが合いだしたのである。

こうして小林攻略の準備が着々と進められていった。


7月6日の練習が終わった。この日、夜のミーティングが行われた。

司がある程度の敵資料を揃えてきたので、それを基に古屋監督は説明した。

「まあデーターをみる限りそれほど怖いチームではない。普通にやれば高得点は期待できる。一番いけないのは気の緩みだ。それと立ち上がりに点をとられても焦らない事。

速見、俺の見るところお前は立ち上がりがあんまりよくない。緩い球で入れていっても長打はないんだから、安心して投げろ。以上だ」

速見は痛いところを突かれた。彼はタフマンで何球でも投げられるのが取りえだが、立ち上がりに少し難があるのが欠点なのだ。

しかし速見がそれを言ったぐらいで、落ち込んで崩れる人間でもない事も古屋監督は知っていた。だから言ったのだ。

ミーティングが終わり、椅子をしまう音が一斉に鳴り出して、今日の練習は終了した。



陽一と恵は汐入駅で待ち合わせして、一緒に帰る事が完全に日課となってしまった。
陽一は恵を家まで送ろうと、途中の鎌倉駅で降りて恵の家の方角へと一緒に歩いた。

そして家の近くの公園へとやってきた。

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「いよいよ明日は試合だね」

「ああ・・・」

「どうしたの?元気ないじゃん」

「俺の胸に手を当ててみて」

恵は言われた通りに、陽一の胸に当ててみた。

すると陽一のどくどくと高鳴る鼓動を感じ取る事ができた。
「恐いんだよ。試合するのが恐いんだ」
「どうして?」
「負けたらどうしようって。本当は俺たちは全然強くないんじゃないかって。甲子園なんてかっこいい事言っておいて、1回戦でボコボコにやられてしまうんじゃないかと・・・オレ本当は気が小さいんだよ。弱虫なんだよ」と言って陽一は無理に笑顔を作った。
「大丈夫だよ、一生懸命練習してきたじゃない。絶対勝てるよ」
「だといいんだけどな・・・それじゃあ帰るよ」
「うん、試合結果メールしてね」
そういって二人は、それぞれの家へ帰ろうとした。
すると陽一が「ちょっと待ってくれ」と言って、恵を呼び止めた。
恵を呼び止めると、陽一は「一応言っとくけど、オレお前の事好きだから」と言った。
恵は一瞬びっくりしたが、笑顔で「うん」とうなずいて、その場を去っていった。
陽一の告白は恵に真意を問うような告白ではなく、まるで今までお互いの気持ちを再確認しあうかのようだった。
そして恵は陽一と別れた後、自宅近くの路地を歩いていた。

一応言っておくけどって何?

それって告白?

でも不器用な徳永君にとってはそれが精一杯か・・・。

わかってる・・・。

私も好きだよ・・・徳永君。


次の日は七夕の日だった。
朝から恵はずっと落ち着かなかった。
陽一の事がずっと心配だった。
陽一は普段無頓着だが、野球に関しては思い詰める性格なのをわかっていた。

授業内容も全く頭に入らずに、ただただ試合結果が入ってくるのを待った。


しかしそんな恵の心配をよそに、保土ヶ谷球場では陽一のバットが火を噴いていた。
なんとレフトスタンド上段に突き刺さる特大アーチを2連続で放ったのだ。
そして3時間目の休憩時間に、恵の携帯のバイブがブーンとなった。
慌てて恵は携帯電話を開くと、陽一からのメールが届いていた。
『初戦突破!』と書いてあった。
「よかった・・・」
恵は胸を撫で下ろした。
港南学院は中堅校の横浜実業を12―0の大差で、3回コールド勝ちを収めた。


そしてその日の放課後、恵は鎌倉駅前で陽一が来るのを待っていた。
すると試合を終えた陽一が、改札口を抜けてきた。

二人は向かい合うと、しばらく見つめあった。
そして「やったー!」と言って、手を取り合って喜んだ。
「徳永君、よかったじゃん!勝ったじゃん!おめでとう!」
「ああ、とりあえずホッとしたよ」
そう言い合うと、二人は御成通りに向かって歩き出した。
そして陽一が、恵に手を差し伸べると、恵は少し照れながら陽一と手をつないだ。
恵にとって初めての彼氏だ。
「ねえ徳永君、下の名前で呼んでもいい?」
「ああ」
「先に私の名前言ってよ」
陽一が、かなり恥ずかしそうに「じゃあ・・・恵・・・」と言うと、恵は「陽一」と言って笑った。
そして二人は手をつなぎながら、御成通りへと消えていった。

二人にとって忘れられない七夕の日となった。

だがそんな二人を遠くから見続ける女子高生がいた。

鎌倉駅の改札口でボーゼンとたたずむ由香子であった。

そしてその日を境に、由香子が野球部のグラウンドに来ることはなかった。


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