フォーエバー・フレンズ -339ページ目

9、由香子の気持ち(3)

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神奈川県は全国で一番高校野球の参加校の多い地区である。

その中でも、毎年甲子園出場を有力視されている高校を『トップ3』と呼んでいる。

そのトップ3とは、横浜の明田学園、鎌倉の陵善寺義塾高校、そして最後、相模原の武南高校の事である。

そして準々決勝に進んだ港南学院は組み合わせの結果、この『トップ3』すべてに勝たなければ、甲子園の切符をつかむ事ができないのである。

そのトップ3の最初の相手は明田学園である。

明田学園はエースの黒田を中心としたバランスの良いチームであり、確実にバントやスクイズを行ってくる、いわゆる夏の大会に強いタイプである。

エース黒田は速見と同じ左腕で、140kmのストレートと大きく割れるカーブを駆使する本格派投手である。

7月23日、世間は既に夏休みに入っている。

36度の灼熱の昼下がりの横浜スタジアム。

今、両校の熱い戦いが始まろうとしている。

応援にやってきた恵と茜は、3塁側のスタンドで、あまりにもの暑さの為頭にタオルをかけながら、席を並べて座っていた。

夏休みに入ったせいか、両側のスタンドにはブラスバンドがやってきて準備を始めていた。

「茜、私怖いよ」

「本当心配性だね。大丈夫。絶対勝つって」

「だって、周りの人みんな明田学園が勝つって言ってるよ」

「知らないだけよ。むこうは有名だから、勝手にそう思っているだけよ」

野球を知らない恵にとって、勝ち負けなんてどうでもよかった

ただ陽一が悲しむ姿だけは見たくなかった

校長先生がスタンドを見渡していると、恵と茜がタオルを頭からかけている事に気付き、二人に野球部とお揃いの濃紺に白く『K』というアルファベットが入った帽子をプレゼントした。

そして「君達、野球見に来るのに帽子ぐらいもってきなさい」と言って去っていった。

準々決勝からテレビ中継が始まる為、数台のテレビカメラが右に左に動いている。

左腕に『報道』と書かれた腕章を付けている人も沢山いる。

その物々しい雰囲気に恵の鼓動はドクドクと高鳴った。

だが恵よりも緊張している女性がいた。それは仁科先生だった。

仁科先生は野球部部長だから、当然ベンチに入るのである。

この間、横浜スタジアムのベンチに入っただけでも緊張していたのに、今日はテレビカメラまであるのだ。もう逃げ出したいくらいである。

選手控室で港南学院の生徒は円陣を組んでいた。

「あと3つだ。あと3つ勝てば甲子園だ。頑張っていこう!」

速見の声に、全部員は声を揃えて「オー!」と叫ぶと、控え室を出た。

明かりで照らされた廊下を歩く港南学院の選手達。

先頭はもちろん野球部部長の仁科美幸である。

続いて古屋監督、そして主将の速見・・・。

報道陣がバシャバシャとフラッシュをたく。特に女性部長は珍しいため、フラッシュの数はハンパじゃない。

仁科先生は強張った顔で、「助けて!」と心の中で叫んでいた。

そして港南学院がベンチに現れると、陽一や真がオーロラビジョンに映し出された。

「すごーい!」茜と恵は声を揃えた。

選手それぞれのポジションへと散っていくと、アナウンスが流れた。

「港南学院高校。選手の紹介を致します。1番サード一ノ瀬君。2番ショート片岡君」

紹介されるたびに「わー!」と歓声がとんだ。

「3番センター徳永君。4番レフト遠山君。5番ピッチャー速見君」

クリンナップの紹介の時、放送席の解説者が何やら熱く語っているようだった。

「6番ファースト迫田君。7番キャッチャー宮城君。8番セカンド原君。9番ライト北原君」

陽一は笑顔で、慎太郎と真にポジショニングの指示を出していた。

それを見て恵は少しだけホッとした。



ウー!というサイレンとともに、両校の選手がベンチを飛び出してきた。

そしてホーム上でお互い礼をした後、港南学院の選手は3塁ベンチへと戻っていった。

港南学院は先攻である。

明田学園の黒田が投球練習投げた速球を、電光掲示板は141kmと表示した。

黒田のスピードに、スタンドから歓声があがった。

投球練習を終え文麿がバッターボックスに入ると、主審は「プレイ!」と言って手を上げた。

初球はカーブだった。「ストライク!」主審が小さくジャッジした。

「よく割れるカーブだなあ」文麿はぶつぶつ言って、またバットを構えた。

2球目はストレートだった。「ボール!」

「なるほどなあ・・・いい球だな」またぶつぶつ独り言を言った。

3球目もストレート。「ストライク!」あっと言う間に2ストライクに追い込まれてしまった。

「緩急だなあ」相変わらずぶつぶつ。

4球目カーブ「ストライク!バッターアウト!」

文麿がベンチに戻ってくると、すぐさま司が駆けつけてきた。

「一ノ瀬君どうだった?」

「う~ん。やっぱストレートとカーブ2種類だけだな。ストレートはそんなに速く感じない。打てない球じゃないと思うんだけどなあ、カーブがすんげえ割れるんだよ」

司は「やっぱストレート狙いか」と言ってじーっと黒田の投球フォームを見た。

古屋監督はいつも思っていた。司は選手としてより、裏方の方が向いているのではと。

そしてこの回は三者凡退で終わってしまった。やはりあのカーブでタイミングが狂ってしまうのである。



1回裏、速見はまた悪い癖がでた。最初のランナーをフォアーボールで歩かせてしまったのである。

古屋監督は頭をかきながら「こりゃ先制されるな」とボヤいた。

案の定バントで送られた後に、タイムリーを浴びてしまった。一番いけない点の取られ方だった。

「どうしよう。助けて」恵は両手で顔を塞いだ。

「まだ1回じゃない。しっかりしなよ」と茜は恵の頭を軽くコツンとやった。



3回を終わっても港南学院にはヒットが出ない。

そして3回裏に、速見はまた点をとられた。

初回と全く同じである。

最初のランナーをフォアボールし、バントで送られタイムリーと言う結果に、古屋監督のボヤキがまた入った「こりゃ病気だ。直らんな」

「大丈夫かな速見君」仁科先生が横で心配すると「大丈夫だよ。尻上がりに良くなるタイプだから。ほら奴何も気にしてない」古屋監督は速見を指差した。

すると速見は「やっちゃったー」と言う感じで舌を出して笑っていた。

そんな速見を見て思わず仁科先生は噴出してしまった。

3回裏を終わって20。港南学院は2点のビハインドとなった。


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