フォーエバー・フレンズ -337ページ目

10、決勝戦(1)

港南学院は遂に神奈川県大会決勝に進出した。

でも恵は嬉しい反面、少し寂しい気持ちになっていた。

確かに陽一の活躍は嬉しい。

しかし陽一の事が新聞紙面に載るたびに、陽一との距離感を感じていたのだった。

陽一は今年の春に編入してきたとき、何かを失った少年のようだった。

そしてそのつらいとき恵はいつも傍にいた。

陽一の苦しみや悲しみを一番知っているのは恵だった。

しかし今の陽一は数ヶ月前の何かを失った陽一ではなく、これからスターダムへとのし上がろうとしている自信に満ち溢れた陽一であった。

恵はコロンブスの休憩室で、今の悩みを茜に相談してみた。

「茜は心配じゃないの?」

「何が?」

「このまま遠山君が遠くにいってしまうって思わないの?」

「う~ん・・・考えたことないよ」

「例えばだよ、女の子からキャーキャー騒がれて、その気になって浮気しちゃったりとか・・・」

「そしたら問答無用で殴る」茜は自信満々でそう答えた。

恵は茜の強さが羨ましかった。

「私、陽一の事がたまにわからなくなるし・・・陽一、本当に私の事好きなのかな?有名になったらどこか行ってしまうんじゃないかなって・・・」

茜はそんな恵の悩みを聞いて、しばらく黙っていた。

そして「恵、信じるしかないよ。まだ付き合って間もないんだから、知らないところがあって当然だよ。それに陽一君はそんな人じゃないと思うよ。真ならあり得るけど」と言って笑った。

「だといいんだけど・・・」

「恵、野球の試合始まると恐がってるじゃん。どうして?」

「だって・・・陽一は、野球の事になると物凄い真面目だから、負けたら落ち込んで立ち直れなくなるんじゃないかって・・・。辞めたいって言って落ち込んだ事もあるし」

「飛行機事故で両親を亡くした陽一君を、ここまで立ち直らせたのは恵じゃないかな?」

「私?それは違うと思う・・・」

「私は、恵がいたから陽一君はここまで頑張って来れたんだと思ってる。恵はそれが出来たんだから、一試合ぐらい負けたって大丈夫だよ。もっと自信もちなよ」茜はそう言って恵の背中をポンと叩いた。



恵はバイトから帰路に付く途中、一人歩きながら考え事をしていた。

陽一が遠くに行ってしまうんじゃないかとずっと不安に思ってい

そう思って歩いていると、陽一の御用達のイワサキスポーツの前を通りかかった。

そして恵はなんとなくその閉店間際のイワサキスポーツへと、入っていった。

店内に入ると、恵には価値がわからないが、名品の野球道具が並べられてあった。

そしてその名品のグローブを自分の左手にはめ、じっと見つめた。

するとイワサキスポーツの店長が「陽一は元気か?」と声をかけてきた。

「私の事、覚えていたのですか?」

「忘れないよ。陽一が女の子連れてきたの初めてだからな」と言って店長は笑った。

そして「何か探し物かい?」と恵に聞いてきた。

「いえ・・・なんとなく入ってしまったんです」

「そうか・・・野球道具って面白いんだろ?手の甲まで隠れるグラブや、真っ赤なグラブや、いたって普通のグラブもあったりして」店長は名品達見回して、そういった。

「あの・・・いい道具を使うと、野球が上手くなるんですか?」

恵の質問に、店長はゆっくりと首を横に振った。

「関係ない。ただ、野球選手にとって道具というのは恋人と一緒なんだよ。陽一はとくにそんな考えを持っている」

「恋人・・・ですか?」

「そう、道具は選手の心の支えとなって、厳しい練習や試合を共に乗り越えていくんだよ。だから陽一はあれだけ熱心に道具を選ぶんだよ」

「そうなんですか・・・

「ところで君は陽一の彼女?」

「・・・はい」恵は少し戸惑いながら、そう答えた。

「心配だろ?最近注目されているしな。それにイケメンだしなあ」

「やっぱり、有名になるとモテます?」

そりゃあモテるよ。しかし陽一はそれで調子に乗って、女をとっかえひっかえするような奴じゃないよ」

「どうしてわかるんですか?」

「あいつ、余分な飾り物は一切付けないだろ?何故だかわかる?」

「意味のないものは、付けないと言ってました」

店長は首をゆっくりと横に振った。

「あいつにとって意味のないものというのは、力となってくれないものという意味なんだ。だからあいつは飾り物は一切付けない。それと同じようにあいつが惚れる女は、上辺だけのチャラチャラした女じゃなく、共に苦労を乗り越えていけるような女しか好きにはならない。だから君の事を好きになったんだよ」

店長は笑ってそう言うと、硬式用のバットを恵に手渡した。

「重い!」



陽一はこんなに重たい物を振ってたんだ・・・。



「1年前、陽一はこのバットを重たく感じていた筈だよ。だけど今、陽一は君の存在があるからこのバット軽く感じている」

恵は、その重たい硬式用バットをじっと見つめた。

「あの・・・もし私がリストバンドを送ったら、彼は付けてくれるでしょうか?」

「君だと思って、付けると思うよ」店長はそう言って笑った。

そしてその日、恵はイワサキスポーツで、陽一の為にリストバンドを特注した



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