フォーエバー・フレンズ -333ページ目

10、決勝戦(5)

京急横須賀中央駅前に、『祝 港南学院高校 甲子園出場』と垂れ幕が掛けられた。

6年ぶり23回目の出場である。

横須賀市内は、この元名門校の快進撃に酔いしれた。

そして応援バスの手配からいろいろと学校側も対応に追われた。

今日は練習こそ無いが、仁科先生は職員室でバスの貸切から宿舎の手配までいろいろやらなければならない事だらけだった。

疲れたといえば疲れたのだが、仁科先生はこの数ヶ月、教師をやって本当によかったと思って満足している。

決勝戦終了後、生徒達に胴上げされた時、仁科先生は感極まって生徒達と泣いてしまった。

契約教諭でもなんでもいい。教師という職業は生徒と一緒に何かを成し遂げる事ができる喜びがあるのだ。こんな事は普通のサラリーマンでは味わえない。

今までなんとなく適当に教師をしていた仁科先生も、生徒達と少しずつ成長していった。


仁科先生一人では大変かと思い、恵は学校で仁科先生の仕事を手伝う事となった。
結構やる事は多い。
まずバスの予約が40台もあり、これには生徒だけでなく地元商店街の人達も乗るのだ。
部外者の人の為に、校内に『バス乗り場』『トイレ』『立ち入り禁止』などの標識を作らなければならない。
恵は朝10時に学校にやってきて、バイトが始まる時間まで職員室で仁科先生と作業にとりかかっていた。

文麿は、甲子園の切符とお約束の由香子の一日デート券を手に入れた。

だが由香子は朝から横須賀中央駅前のゲーセンで、ひたすら文麿にUFOキャッチャーをやらせた。

勿論お金は由香子が出すのだが、由香子が取って欲しいものを指定し、その指定したぬいぐるみを文麿がひたすら取るのだ。

そして失敗した場合、由香子の蹴りが容赦なく飛んでくるのである。

そんなこんなで2時間かけて取ったぬいぐるみは、袋一杯になった。

「なんでこんなぬいぐるみばっか取るんだよ」

「いいからいいから。さっ次は一ノ瀬どこか連れて行って」

「そうだなあ・・・三浦海岸にいかねえか?」

「いいよ」

そう言って由香子は文麿のバイクに乗っかって、真夏の三浦半島を南下していった。

「由香子気持ちいいだろ」

「最高!でもこのバイクうるさい」

「改造してっからよ」



三浦海岸の駐車場にバイクを止めて、由香子は海水浴客のいる海岸を見つめていた。

すると文麿が海の家から『ラムネ』を買ってきて、由香子に手渡した。

由香子は「サンキュ」といって、ビンの中のビー玉を邪魔そうに飲みだした。

「おいしい。でもなんでラムネの中ってビー玉が入っているの?」

「由香子、そんな事も知らないのか?炭酸だからビー玉が押しあがって、ふた代わりになるんだよ」

「そうなんだ」

すると由香子は、思い出したように笑い出した。

「そういえば中学の時恵に同じ質問したんだけど、何て言ったと思う?すぐ無くならない為だってさ」

これには文麿も噴出してしまった。


「なあ由香子お前決勝戦の時一塁側にいたよなあ。どうしてだよ」
由香子は黙っていた。
「普通三塁側だろ。お前知ってるだろ」
「恵に合いたくなかったから」
「そうか・・・」
「恵に合ったら気まずいし・・・」由香子はそういうと下を向いた。
すると文麿は立ち上がって、海を見つめた。
そして「なあ由香子甲子園優勝したら俺と付き合ってくれるって信じてもいいか?」と由香子に言った。
「ええ?」
「言っただろ。この間横須賀港でさ」
「出来っこないじゃん。甲子園だよ?優勝だよ?」
そんな事わかんねえだろ
由香子はしばらく黙っていたが、思いついたように話し出した。
「私をもっと好きにさせてみせてよ。もっと一ノ瀬の事を好きにさせてみせてよ」
「どうすりゃいいんだよ」
「そんなの自分で考えてよ」
文麿は一生懸命に考えた。
「よし!決めた!甲子園で優勝したら、俺も変われるかもしれねえ。その時もう一回告白する。由香子だって俺の事好きになっているかもしれないしさ」
「あはは。ないない」由香子は笑って首を横に振った。
「あるある!」

写真素材 PIXTA
(c) gobu写真素材 PIXTA



そして二人は三浦半島をぐるりと回って、由香子の家がある鎌倉の方へと向かった。

本当は由香子は文麿の事を少し好きになりはじめていた。

文麿がここまで元気づけてくれたのだ。

だからもっともっと好きさせて欲しいと思った。

しかし、この二人に無情な事が起こってしまう。

海辺の道をくねくねと曲がり、鎌倉が近くなってきた頃、センターラインをはみ出してきた乗用車と遭遇してしまうのである。

そして二人の乗ったバイクは乗用車とぶつかり飛ばされてしまう。


文麿はアスファルト上を転げまわり、気がつけばアスファルトの上で寝ていた。

気がつくと、あたりは人だかりが出来ていた。

文麿は立ち上がりあたりを見回すと、10m先のガードレールの傍に、由香子が血を流して倒れていたのを見つけた.


急いで由香子のもとに駆け寄った。
「由香子!由香子!」文麿は必死に体をゆすったが、由香子は目を開けなかった。
そして遠くから救急車のサイレンが聞えてきた。

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