フォーエバー・フレンズ -334ページ目

10、決勝戦(4)

真はバッターボックスに立った。そしてその姿には何かオーラのような物を感じた。

その4番の威圧感で、観客はシーンとなって固唾を呑んだ。

それはブラスバンドの音が何故か遠くで鳴っているように聞える程だ。

司はじっと真を見つめた。


「遠山君、初球はストレート。多分内角に入るよ」

小林は肩で息をしだした。初球はストレートから入ったが、真ん中だった。

真はまったく動かなかった。


「そうか・・・この暑さだ。球威が落ちている。150キロマシーンより遅く見えるぜ。つまりここが勝負だな」


真は小林に睨みを聞かし、バットを構えた。
司はサインを送った「次アウトローのスライダーだよ」

予想通りスライダーがきて、ストライクゾーンから外れボールとなった。

カウント11。

司は小林の姿をじっと見た。


「遠山君、次カーブだよ。いいコースなら打とう!」

小林はセットポジションから3球目を投げた。

カーブがやってきた。しかもインコースから真ん中に入る。

早乙女は「やばい!」と咄嗟に叫んだ。

これまで動じなかった真の体が、今やっと反応した。


カーンと言う音とともに、ボールはセカンド上空を越えていった。
歓声が沸く横浜スタジアム、修二がゆっくりとホームイン。21。
陽一は3塁付近まで来て失速しかかった。

すると司は「走れ!徳永君!」と言って手を回した。
武南のライトの選手が、どうせ陽一は走らないと思い、ステップを3つもして2塁手に『ふわっ』とした軽い山なりの球を投げたのを、司は見逃さなかった。

司のその声に、陽一の体は咄嗟に反応し、再度加速を始め3塁ベースを踏んでホームへ向かった。

それに気づいた小林は「バックホームだ!」と叫んだが遅かった。

港南学院ナンバー1の俊足の陽一は、どんどん加速していきそのままホームベースへ突入していった。


その瞬間横浜スタジアムは大歓声に沸いた。
ラジオの実況は興奮気味に「ホームイン!ホームイン!」と叫んでいた。
「いやあ。よかったですよ。ナイス判断です。あの3塁ボックスの原君ですか?。素晴らしい判断です」と解説者も司をべた褒めした。

小林はガックリと肩落とした。物凄く嫌な点の取られ方である。
古屋監督も珍しく興奮して立ち上がり、「司!ナイスだ!」といって小躍りをした。

これで22の同点となった。

しかもこのドタバタ劇の合い間に、真はちゃっかりと2塁に進んでいた。

そして次のバッターの速見は、送りバントで真を3塁に進塁させた。

これでワンナウト3塁で、打順は6番の裕輔だ。

これ以上点はやらないと、武南は前進守備を敷いてきた。

再三粘った裕輔は、カウント23で7球目を強振した

するとボールは叩きつけられて、高いバウンドとなった。

「走れ!遠山君!」司はホームを指差した。

金属バットで叩きつけられたボールは、高く上がる。

遠くに飛ばすだけが野球ではないのだ。ゴロでも点は取れる。

セカンドがキャッチし、急いでバックホームをしようとしたが、真は既にホームへの突入体制に入っていた。

そしてブロックしようとするキャッチャーの早乙女を、まるでラグビーのタックルかのごとく跳ね飛ばして、ホームインした

2。逆転だ。

「逆転!逆転!技あり!なんと3安打で3得点!」実況が興奮してマイクを握る。

港南学院応援席は紙ふぶきの舞う大フィーバー。

「やったあ・・・よかった」恵は胸を撫で下ろした。

すると茜は恵に抱きついてきた。

茜はもう泣き出しそうだった。



9回裏、速見はもう完全に立ち直り、スクリューボールが回を追うごとに冴えわたった。


「ストライク!バッターアウト!」


これで2アウトランナー無しとなった。
球数は140球を超えたが、タフマンの速見に疲れはない。
陽炎が沸き立つ横浜スタジアム。32で港南学院リード。


つい最近までたった3人だった野球同好会。
しかし陽一をはじめ真、文麿、修二・・・。
球児達はまるで何かに導かれるようにしてあつまった。
そして社会と青春の間に挟まれ沢山の苦難を乗り越えてきた。
一杯泣いてきた。一杯苦しんできた。
しかしその若者達は今甲子園の切符をつかもうとしている。
そして、武南高校最後の打者の打った打球はセンター、つまり陽一の頭上へと落ちてきた。
陽一は目に涙を浮かべながら、横浜の青空に浮かんだボールをしっかりと見つめた。
そして落下してきたボールを両手でしっかりとキャッチした。
その瞬間港南学院の甲子園進出が決まったのだ。
フィールド上の選手達、ベンチにいた選手達は一斉にマウンド上へと走っていった。
まず両手を上げた速見に、プロテクターを付けた宮城が抱きついた。
そして次から次へと選手達が飛び込んでいった。
3塁側応援席の観客はみんなお互いに抱き合い涙した。
そして恵も茜も抱き合って涙した。

そして拳をあげて叫ぶ陽一の姿を、恵はしっかりと見続けた。



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