11、愛する心(1)
仁科先生と恵は大体の作業を終えた。
「終わった終わった。当日の段取りは校長先生がやってくれるそうだから、これで終わり。明日はいよいよ出発!」仁科先生は両手で拳を作って、ガッツポーズをした。
「結構大変でしたね」
「ほんと山野さんはがいてくれて助かった。この後もバイトなんでしょ。本当によく働くね」
「そんな、大した事ないです」
「徳永君がうらやましい。こんないい彼女がいて」
「先生!」仁科先生の、その『彼女』という言葉に、恵は過剰に反応した。
「もう分かってるんだよ。山野さんと徳永君の仲」
「誰か言ったんですか?よう・・・徳永君が言ったんですか?」
「今陽一って言おうとしたでしょ?誰も何も言ってないよ。でも見てればわかるの。そうなんでしょ?」
「・・・はい」恵は遂に白状した。
「徳永君、野球の事しか考えてない子だから、相手するの大変でしょ」仁科先生はそう言って笑った。
「私・・・つい最近まで野球の試合見るのが怖かったんです」
「どうして?」
「彼、野球となると思い詰めるんです。何かあると自分が悪いと思って。だから試合で負けたりして、悲しむ姿を見るのが耐えられなかったんです」
「今は?」
「もう平気です。負けたら私が慰めます。打てなくなってみんなからブーイング浴びても、私だけは彼の味方になります」
「そうかあ・・・私、徳永君が山野さんを選んだ理由なんとなくわかった」
「どんな理由なんですか?私わからないんです。彼何も言ってくれないんです・・・」
「それは・・・いずれわかると思うわ。心が一つだったら」
仁科先生の言葉はとても優しかった。
そして「あ~あ、私も彼氏欲しいなあ」と言って仁科先生が大きくノビをして立ち上がると「さあ帰ろうか。山野さんこれからアルバイトでしょ」と言った。
すると突然電話が鳴り出した。
「はい港南学院高校でございます。えっ?はい一ノ瀬文麿、手嶋由香子?はい、ここの生徒です。私、担任の仁科です。えっ!警察?・・・そうなんですか!・・・はいわかりました。すぐ参ります」
仁科先生はそう言って電話を切った。
「大変。一ノ瀬君と手嶋さんがオートバイで事故に・・・」
「えっ!」
恵と仁科先生は、急いでタクシーを呼んで、鎌倉救急病院へ向かった。
そしてタクシーの中で、恵はバイト先へ連絡を入れた。
「すみません店長。ほんと緊急なんです。はい。すみません」と言って電話を切った。
「一体どうなってるんだろう。大丈夫なのかしら・・・警察の人、無事かどうか何も言わないのよ・・・」仁科先生は心配そうな顔をした。
「由香子・・・」恵はそうつぶやくと、タクシーの窓の外の景色を上の空で見ていた。
鎌倉緊急病院、恵と仁科先生は病院の玄関を走りぬけ、受付のカウンターにたどり着いた。
そして仁科先生は「手嶋由香子という高校二年生の女の子が、この病院に運ばれたと・・・」と受付の女性に尋ねた。
すると受付の女性は「はい、手嶋由香子さまは、只今外科2Fの集中治療室で治療を受けていらっしゃいます」と至って事務的に案内をした。

(c) cashew
|写真素材 PIXTA
面白いと思った方、投票お願い致します。
↓↓↓
にほんブログ村