フォーエバー・フレンズ -330ページ目

11、愛する心(3)

次の日の朝陽一は自宅で出発の準備をしていた。

あらゆる用意をした後、両親の写真の横に置いてある恵の写真をバッグに入れた。

両親の写真も持っていこうとしたが、それは置いていく事にした。

そしてその写真に向って「親父、これから甲子園に行ってくる。見守っていてくれ」言って鎌倉の自宅を出発した。

その後、港南学院選手団と合流し、新横浜駅から新幹線に乗った。


写真素材 PIXTA
(c) しんいちK写真素材 PIXTA

新幹線の座席は陽一と真が隣同士だった。

「なんでお前の横なんだよ。窮屈だ」陽一は真を邪魔者扱いにした。

そりゃそうである。真は186cmで90kg 陽一は185cmで80kg。

こんな男二人が狭い新幹線の座席に隣同士で座れば、隙間すらない。

あまりにも窮屈なので、真は冗談交じりで「仁科先生!グリーン車に変えてくれよ!」と言うと、みんなからブーイングが飛んだ。

すると「お前ら昔いつもこうやって遠征しただろ」と後ろの座席から古屋監督が言った。

そうだった。4年前はいつもこうやって移動していた。

しばらくすると右手に富士山が見えてきた。

「なつかしいな・・・」真は言った。

「こうやってさ、この窓に二人べったり手を付けて富士山見てたな」陽一も思い出したように言った。

しばらく二人で富士山を見ていると「山野は応援に来ないのか」と、ふと真が言い出した。

「ああ、由香子の病院につきっきりだよ。茜ちゃんはどうするんだ?」

「来れない。スカジョだから応援バスに乗れないんだ」

「そうか。残念だな」

応援バスに乗れるのは、港南学院学校関係者と、横須賀商店街の組合員だけであった。

だから二人とも愛する彼女の応援無しの戦いであった。



新幹線が名古屋駅を出た頃、真はさっきと打って変わって真面目な口ぶりで話し出した。

「おい陽一、お前もっと砕けろ。硬いんだよ

「砕ける?」

「お前野球の話ばかりするだろ。どうせ山野にも野球の話ばかりしているんだろ」

図星だった。

「でもよ。山野は野球知らねえんだぞ。そりゃ残酷だぜ。好きな気持ちもロクに伝えないでさ。」

「そんな事ない。何度も言ってるよ」

好きだけだろ?しかもメールでさ」

陽一はあまりにも的確に的を突かれた。

「じゃあなんだよ。恋愛小説みたいにお洒落な事でも言うのか?」

「お前やっぱり馬鹿だな。お前がそんな事言ったら笑っちまうよ」

陽一は完全に言葉を失ってしまった。

「あのな、お前山野の何処に惚れたんだよ?それをしっかりと山野に伝えてないだろ」陽一は真のお説教に耳を傾けながら、窓の外を見ていた。

「真面目なお前の事だ。ちゃんとした理由があるんだろう。それは伝えなくても、俺にはわかる。でもなあ、女はそれをちゃんと伝えて欲しいんだよ。じゃないと山野だって不安だよ」

真の言う通りだった。

以前真に、お前の考えている事は俺も一緒だと言った陽一の言葉は正解だったのだ。



その日の夕方、陽一は宿舎に入った、恵へ手紙を書いた。

それは言葉では上手に伝えきれず、メールでは多すぎて伝えきれない陽一の恵に対する気持ちだった。

そしてその手紙は2日後に恵の自宅へと配達され、その日の夜中に恵は手紙を開封した。



   恵へ



今俺は、宿舎でこの手紙を書いている。

この4ヶ月間俺はずっと野球ばかり見てきた。

でも今日、恵への気持ちをしっかりと伝えたいと思い、この手紙を書いた。

横須賀線の中で恵と初めて出会った時、俺は正直言ってもう何もしたくないと思うほど疲れていた。

それは親の死だけが理由じゃない。

それまで俺のまわりにはたくさんの人がいたけど、それは野球の上手い徳永陽一を好きでいてくれただけだった。

人にとって俺の存在価値というのは、野球が出来る事だけだった。

恵と出会った頃、不思議と一緒に歩いているだけで気持ちが落ち着いた。

一緒にいるだけで、孤独な気持ちをかき消す事ができた。

でも、やがてたくさんの恵を知る事が出来た。

地味だけど、なにも文句を言わないで毎日地道に生きている恵。

人の事ばかり気にして、自分の事を後回しにする恵。

一言足りない俺にかわって気持ちを代弁してくれた恵。

たまに一人で泣いている恵。

そして、傍にいると時々見せる笑顔の恵。

そんな恵が大好きだ。嘘じゃない。

恵のおかげで、俺はあの状態から立ち直ることが出来たと思っている。

恵のおかげで俺はここまで頑張る事ができたんだと。

そして俺は今甲子園に来る事が出来た。

最近は新聞やテレビが取材にやってきて、ちやほやしてくれる。

だけど俺だって人間だ。

明日事故に会って、野球が出来ない体になる事だってある。

野球が出来なくなった俺を相手にしてくれるのは、新聞やテレビでもない。

恵だけだと思っている。

俺の事を本当にわかってくれている人は、恵しかいない思っている。

いつも野球の話ばかりしてごめん。

俺は馬鹿だから野球でしか自分を表現できない。

だから恵の為に必ず優勝して帰ってくる。

の体には野球の血が流れている。

俺は恵にそんな事しかできないんだ

でもいつも恵の事を思っている。

本当に好きな人は恵だけなんだと。

追伸

由香子よくなるといいなあ。

看病大変だろうけど、たまにはテレビを付けて俺のプレーを見て欲しい。



机のスタンドライトだけが灯る部屋の中で、恵はこの手紙を読んで泣いた。

そして不器用な陽一の気持ちを、はじめて心から理解する事ができた


面白いと思った方、投票お願い致します。

    ↓↓↓

にほんブログ村 小説ブログ 学園・青春小説へ
にほんブログ村