11、愛する心(5)
準決勝は小雨がぱらついていた。
対戦相手は京都代表の『聖法館高校』。
しかしここで港南学院はつまづいた。
聖法館は予選からの港南学院の映像を入手し、陽一と真の研究をしていたのだ。
その結論は、陽一はアンダースローに弱い。
真は胸元をつくシュート系もしくは速いストレートの球に弱いだった。
そしてなんと両方の打者に、ワンポイントリリーフをぶつけてきたのである。
ファーストには真専用の投手を守らせ、ライトには陽一専用の投手を守らせた。
しかしこの日の速見は強く、立ち上がりに崩れなかったのである。
聖法館高校は、速見のスクリューボールをことごとく凡打した。
そして得点は0―0のまま、そのまま延長戦に突入していった。
延長戦になると雨が少し激しくなってきた。
延長12回裏、2アウトで陽一は苦手のアンダースローを迎えていた。
すると3塁コーチャーズボックスの司はタイムをかけて、陽一の下へとやってきた。
「徳永君、バットを短く持って欲しい」
「こうか?」陽一は拳二つ分バットを短く持った。
「うん。それでね1、2、サン!で打っていたのを、1、2、3数えた後に打って欲しいんだ。狙い球はカーブだよ。カーブ投げる時にサイン送るから、それを打って欲しい」
「わっ・・・わかった」
「あのピッチャーやっぱり三流だよ。簡単にクセがわかった」司はそう言って陽一の下を去った。
なんだあの『チビ』と相手チームは思っただろう。
真は「陽一、俺までまわせよ」と陽一の背後から声を掛けると、陽一は笑った。
5球投げたあと、司はサインを送った。「徳永君、次だよ」
陽一の放った打球は、ライトセンター間を抜けていって、ツーベースヒットとなった。
陽一は、2塁上で泥だらけになりながら、雨の甲子園の上空にむけてほえた。
次は真だったが、再びシュート系のワンポインリリーフをぶつけられた。
するとまた司がやってきた。
「なんだよお前!」真はウザそうな目で司をみた。
「遠山君、シュート打ってみない?」
「無理打てねえよ。苦手だからさ」
「打てるよ。遠山君は脇の開きがちょっと大きいから打てないんだよ」
「お前なんかむかつく奴だな」真は司の屁理屈が嫌いだった。
「脇にちょっと力を入れる程度でいいんだよ」
「そんなもん即席でできるかよ!」真は司を無視して、バッターボックスに向かおうとした。
「向こうだって即席ピッチャーじゃないか。即席には即席で勝負してやればいいんだよ」
と言って、司は口を尖がらせた。
すると今度は修二が伝令にやってきた。
「なんだよ。今度はお前まで」真は呆れかえってきた。
「遠山さん、監督はシュートを叩けと言っています」
「なんだと!」
「ほら監督も同じでしょ」司はニヤリと笑った。
「クソ、わかったよ!やればいいんだろ!」さすがの真も、古屋監督の命令には逆らえない。
「サイン出さないよ。初球シュートで入れてくるからさ」そう言って司はコーチャーズボックスへと戻っていった。
古屋監督は、司に部分的な戦術は、ある程度任せていた。
司の考えている理論と古屋監督の理論はウリ二つだからだ。
そうやって武南の小林も攻略してきたのだ。
見事に的中した。
真の打った初球のシュートは、雨傘の咲く甲子園のレフトスタンドへと消えていったのだ。
病室で恵は、両手を胸元に組みながら思わず「やった!」と叫んでしまった。
「サヨナラだ!サヨナラツーランだ!遠山打ちました。4番の意地を見せた!」
イヤホンから耳奥に伝わる実況を耳にした。
「決勝進出を決めたのは、大阪の淀商!。そして神奈川の港南!。春に続き大阪対神奈川の対決となりました」
観客席で試合を既に終えた淀商チームは、この一戦を雨合羽を着ながら見ていた。
淀商の監督は松永と言い、とても無口な人間である。
その松永監督は「なるほどなあ・・・そら武南も負けるわ」と関西弁で独り言のように言った。
すると隣にいた主将の大河内が「あのチビがモーション盗んどるみたいですね」と同じく関西弁で言った。
「うん・・・ウチらが小林倒したのと同じや。ところで大河内、港南の速見のクセわかったか?」
大河内は首を横に振った。
「そやろうな。あの古屋って監督がそんなもん修正させとるやろ」松永監督はそう言いながら少し苦笑いをした。
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