11、愛する心(4)
甲子園開会式。全国から集まってきた49校の高校がこの甲子園に出揃った。
恵は自宅から自転車で、鎌倉救急病院へと向かっていた。
8月8日の朝8時。
恵は、病室で泊り込みで看病していた由香子の母に代わって、意識の戻らない由香子を看病する。
病室につくと早速テレビカードをカード入り口に入れた。
そして由香子の様子を気にしながら、イヤホンを使って開会式を見だした。
最初に昨年度優勝校である、大阪代表の『淀商高校』が入場してきた。
淀商高校は昨年の夏と今年の選抜を連覇していて、エースは2年生の篠宮。そして主将で4番キャッチャーの大河内は今年の高校生ドラフトナンバー1候補である。
音楽に合わせて、それぞれの高校が入場し、やがて『港南学院』のプラカードを先頭にした選手団が現れた。
キャプテン速見を先頭にし、その後を陽一や真が行進をしていた。
「陽一・・・」数日ぶりに見る陽一の姿に、恵は目を輝かせた。
恵だけじゃなく、茜も横浜の自宅でその中継を見ていた。
テレビの下のDVDは『録画』の赤い文字が点灯していた。
開会式が終わると、恵はテレビを切って、意識のない由香子の顔や体をそっと拭いた。
そして「由香子。早くよくなってね」とつぶやいた。
看病といっても、別に横にいるだけじゃない。
意識の無い由香子は体が痛い為か、無意識に点滴を外そうとするのである。
すると恵は由香子の体を押さえるのだ。
「うう・・・」体の痛さで由香子がうめくと、あまりにも可哀相で泣きそうになってくる。
でも泣いちゃだめだと自分に言い聞かせ「由香子ダメ」と言って、無心で由香子の体を押さえた。
午後3時になると自宅で仮眠を取り、少しすっきりした顔の由香子の母親がやってくる。
すると恵は、病院からアルバイトへと行くのである。
冷房の聞いた横須賀線の車内の座席に座った恵は、連日の看病で少し疲れていた。
そんな時は、携帯の陽一の画像を見る。
そして「陽一・・・会いたいよ・・・」と口にしてしまう。
アルバイトに行くと、茜が積極的に動いてくれるので、恵は少し楽する事ができた。
茜は恵に、優しい言葉をべちゃくちゃと掛けずに、ただ黙々と仕事をこなしていた。
休憩時間に「ごめんね茜」と恵がすまなそうに言うと、茜は話しをわざと変えた。
「いよいよ一回戦だね。あした病院でちゃんと見るんだよ。もし見られなかったら私録画しているから、DVDにして貸してあげるよ」と笑顔で言った。
茜は強かった。
壊れそうな恵を、何も言わずそっとサポートしていた。
茜と恵の大変さをよそに、港南学院は恐ろしい快進撃を見せ連日甲子園を沸かせていた。
1回戦は文麿が大爆発した。
なんといきなりサイクルヒットを放ったのだ。
「打った!一ノ瀬!これでなんとサイクルヒット!恐るべきトップバッターだ!」と実況が大興奮した。
2回戦。陽一のバットが火を噴いた
「徳永!また打ったあ!そのままレフトスタンド!二試合連続のホームラン!」
3回戦。陽一と真の甲子園初のアベックアーチが出た。
「遠山行ったあ!右中間スタンドだ!恐るべき高校生だ!」
準々決勝。15―3の全員安打の圧勝。
「止まらない!誰も止められないのか!」
そしてこの日陽一は2連続ホーマーで、大会5本目の本塁打を記録し、真も今大会2本目の本塁打を放った。
横須賀中央駅では、駅前のオーロラビジョンで連日彼らの活躍が映し出されたが、横須賀だけではなかった。
今や全国の高校野球ファンが、この高校生離れしたチームに注目を注いでいた。
そしていつしかファンは、優勝候補筆頭の『淀商高校』と港南学院の対戦を心待ちにするようになった。

(c) monjiro |写真素材 PIXTA
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