フォーエバー・フレンズ -323ページ目

12、店長のはからい(5)

仁科先生が古屋監督へ話しかけてきた

「あの・・・私疑問があるのですけど、速水君はそのスクリューって言うんですか?左に落ちていく球を投げられるのに、落ちないで曲がる球を投げられないのは何故ですか?素人の考えだと曲がって落ちる球より、ただ単に曲がるだけの方が簡単だと思うのですが」と聞いてきた。

古屋監督は仁科先生に物凄いヒントを得た。

そして「そうだ!スクリューにこだわる事はないのだ!」と大きな声を出した。

「速見!シュート投げてみろ」

「ええ!」速見は驚いた。そんな急にシュートを投げろとは・・・。

しかし監督命令だ。

速見は宮城を連れて、半信半疑でキャッチボールを始めた。

ところが意外とキレがあるのである。

そうだった。速見は小学校の頃シュートボールの練習を始めて、それからボールを指で挟む事を覚えたのだった。

スクリューボールであまりにも打ち取れる為、いつのまにかシュートを封印してしまっていたのだ。

しかしやはり即席シュートである為、とても甲子園で通用するようなシュートではない。

「そうか!わかった!」司も、古屋監督の言っている意味に気付いたのである。

古屋監督は仁科先生に「先生、大ヒントありがとう」と言うと、仁科先生は何がなんだかわからずに、ただただ愛想笑いだけをした。

「司、何がわかったんだ?」と陽一が尋ねると、司は自慢の『こうしゃく』を始めた。

「スクリューボールにターゲットを絞らせない為だよ」と自慢気に言った。

速見の普段の球はシュート回転をあまりせずズドンと重たいボールを投げる。

つまりスクリューボールだけが激しくシュート回転するのだ。

これではバッターの目の前に来るまでに、球質だけでスクリューが来るとわかってしまう。

だから普通のシュートをおり混ぜて、スクリューボールを読めなくするのである。

しかし古屋監督はこれ応急処置ぐらいにしかならないと考えていた。

所詮即席変化球の為、終盤には読まれると覚悟していた。



浜風が吹こうとも、やはり甲子園は熱い。

茜は『かち割り氷』とは何だろうと思って買ってみた。

するとただの氷だった為、少しがっかりしてしまった。

しかし火照った頬に、その『かち割り氷』付けてみると少し生き返る気持ちになった。

内野席の茜はかち割り氷でおでこを冷やしながら、心配して試合を見守っていた。

だがその茜の不安は3回表に、一時的に解消されるのである。


淀商の先頭打者が速見のスクリューの餌食になったのである。

空振り三振をした打者が戻ってくると、大河内は「なんや。ミスか?」と言った。

すると「大河内さん、あいつシュートも投げますよ」と言った。

「なんやと!」

大河内のコンピューターが少しずつ狂いだした。

篠宮はいやな予感がした。

陽一にアウトローぎりぎりのカーブをスタンドインされ、さらに速見の突然のシュートボール。

データーは本当に正しいのかと、大河内を疑い始めた。

大河内は、速見の投球をじっと見つめた。

結局3回表、淀商打線は三者凡退に終わった。

「大河内どうや?」松永監督はプロテクター姿の大河内に言った。

だが今の大河内には言葉が出なかった。



テレビを見ていた恵は少し安心し、由香子の体を冷たくなったタオルで拭き出した。

なにもさぼっていたわけではない。

由香子が少し汗ばんでいたので、タオルが冷えるのを待っていたのだ。

少し体を傾けて、由香子の背中を拭くと「恵・・・痛いよ・・・」と寝言のように言った。

恵は「ごめんね」と言って、由香子の体を拭き続けた。



篠宮は強かった。

心に若干の不安を抱えながらも、気合の入ったピッチングを見せた。

選抜大会決勝で、武南の小林と投げ合った篠宮。

技術は小林とほぼ互角だが、素晴らしい精神力を持っていた。

4回裏、先頭打者の修二を145km/hの速球で三振に仕留めた。


「しかし凄い投手だな。プロでも即戦力だよ」と古屋監督は篠宮を絶賛した。

そして続く陽一、そして真まで三振に仕留めた。

普段はポーカーフェイスの篠宮だが、真を空振り三振に仕留めると「よっしゃ!」と言わんばかりのガッツポーズをした。

しかしこの回淀商には異変があった。

篠宮は陽一と真の時だけ、大河内のリードに首を振り出したのだ。

なんとこの二人に篠宮は全てストレートを全力で投げ込んできたのである。

3塁ランナーボックスの司は、その異変を読み取った。

「大河内さん、信頼されてないのか?」

篠宮がベンチに戻ると、大河内は「篠宮、お前どう言うつもりや」と言ったが、篠宮はなにも言わず、大河内を無視し続けた。



速見も恐ろしい程の気合を見せた。

先頭打者を三振に仕留め、そして次の打者をキャッチャーファールフライ。最後のバッターをセカンドゴロに打ち取った。

そしてグラブをバシッと叩いて気合の表情を見せ、駆け足でベンチに帰っていった

5回表も淀商は三者凡退に終わった。

「あいつ、こんな一面もあったのか」古屋監督は、速見にとって最後の試合で、改めて彼の事を見直した。



しばらく両投手の必死な力投で、試合は膠着状態へ突入した。

で、港南学院は2点のビハインド。



レフトの守備から戻る真は内野席の茜の姿を見つけると目が合った。

茜はペットボトルのお茶に口をつけながら、少しだけニコリと笑って真の姿を見つめた。

真も強面な顔だが少しだけ口元を緩ませ、表情をニコリとさせた。

この二人は、陽一と恵より少し大人びていた。

茜は心の中に不安があっても、決してそれを顔に出さず真を見続けていた。

その姿は夫の試合を見に来るプロ野球選手の若奥様のようで、まるで真の将来を予想させるかのような大物ぶりだった



両投手の投げあいで膠着状態となった試合は、7回遂に均衡が破られるのである。



恵はイヤホンを付けて試合を見ていた。

すると何か視線を感じた。
そしてふと由香子を見ると、由香子が恵を見て微笑んでいた。
「由香子!」
「恵・・・」
由香子はとても美人だ。
その美しい由香子の目覚めは、まるでこれから起こるドラマの勝利の女神のようだった。

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