フォーエバー・フレンズ -324ページ目

12、店長のはからい(4)

ウ~というサイレンとともに、試合が始まった。

両校の選手はホームベース上で互いに礼をし、後攻の港南学院ナインは大歓声の中それぞれのポジションへと走っていった。

マウンドに立つのは港南学院のエース左腕の速見である。

速見は陽一と同様に、リラックスした感じだった。

ゆったりとした柔らかいフォームから繰りだされる球は、伸びこそ無いもののズシンという重みを感じるようだ。

速見が投球練習ると、淀商の先頭打者がバッターボックスに入った。

「プレイボール!」

超満員の甲子園に歓声が沸きたった。


写真素材 PIXTA
(c) monjiro写真素材 PIXTA


恵は由香子の体を拭くために、ナースステーションまで蒸しタオルを取りにいっていた。

そして蒸しタオルを熱そうにもちながら病室に帰ってくると、港南学院は大変な事になっていた。

速見が初回から捕まったのだ。

いきなり連打を浴びて3点を失っていた。

マウンド上の速見はいつものような笑顔が無かった。

今日はいつもと違い、速見のスクリューはとてもキレがよかった

しかしことごとく打たれてしまう

1アウト1塁3塁のピンチ


「おい司、速見のとこ行ってくれ」と古屋監督が言うと、司はタイムをかけて伝令に向かった。

司がマウンドへと行くと、内野手は速見のもとに集結した。

「司なんか知らないけど、スクリューが打たれるんだよ」と速見は困った表情を見せた。

司は「これは大変」だと瞬時に思い、マウンド上で考えた。

そして「宮城さん、スクリューを見せ球にしてカーブかストレート球にできますか?」とキャッチャーの宮城に尋ねると「長打の危険性が出るぞ」と宮城は言った。

すると司は「外野の守備を信じましょうよ」と言ってベンチへ戻った。

「どうだった?」古屋監督が司にそう尋ねると「どうもスクリュー対策をされていますね」と司は言った。

「どう指示した?」

「スクリューの決め球を減らすしかないと思いました」

「それしかないな。外野守備に賭けるしかない」古屋監督は苦虫を噛み潰すような表情だ。

するとカーンという音とともにセンターへボールが上がった。

陽一はそのボールをキャッチすると、ホームへ矢のような返球をした。

タッチアップでスタートした3塁ランナーは、陽一のレーザービームの餌食となった。

やっとチェンジだ。


「なるほどなあ。あそこまで飛んでもアウトか・・・いい肩や」大河内は陽一のレーザービームを見ると、そうつぶやきながら守備へと向かった。

そして「おい篠宮!」と言って、ピッチャーの篠宮を呼び止めた。

「なんですか?」

「徳永も遠山も恐れるなよ。俺の言うとおり投げたら絶対に抑えられるからな」

「わかりました」2年生エースの篠宮はそう言うと、ゆっくりピッチャーマウンドへと向かった。



港南学院ベンチは慌ただしく動いていた。

速見にとってスクリューは最大の武器だ。

それを打ち込まれると確実な決め球が無くなるのである。

速見はいつもと違って真剣な眼差しで、相手投手の篠宮を見ていた。

篠宮の身長は174cmと、ピッチャーとしては小柄である。

しかしドシンとすわった強靭な下半身を持っていた。

篠宮の140km/h台後半のストレートは甲子園の観客大いに沸かせた。

彼ほど素晴らしい投手は、日本全国の高校を見渡しても何処にもいない。

だから篠宮を打てるチームなんて何処にもない。

そう信じていた大河内の思いに、大誤算が起こるのである。


1回裏の攻撃に、篠宮のアウトローのカーブを陽一が捕らえたのだ。

今大会6本目の本塁打だった。

大河内は呆然と立ちすくんだ。

「まさか・・・アウトローすれすれのカーブをレフトスタンド上段に・・・」

大河内だけではない。

篠宮も同じで、こんなバッターを見たこと無かった。

1。港南学院は一点を返した。

大河内と篠宮にとって、後味の悪い初回となってしまった。


2回表も速見は苦戦していた。

2アウト満塁のピンチを迎えていたのだ。

しかもバッターは4番の大河内。

大河内の打った球はライト方向へと長打なるあたりだ。

「慎太郎!」陽一が叫ぶと、慎太郎はフェンスに体をぶつけながらのファインプレーでキャッチした。

なんとか0点で抑えたが、速見の顔は浮かなかった。

ずっと何かを考えてるかのように黙っていた。

こんな速見は珍しかった。

そして古屋監督ずっと甲子園の青空を見ながら考え事をしていた。

このままでは速見は打たれる。なんとか打開策はないのかと。


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