フォーエバー・フレンズ -325ページ目

12、店長のはからい(3)

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(c) みやさこ写真素材 PIXTA


決勝戦当日真夏の甲子園球場の前には恐ろしい程の人ごみが出来ていた。

その甲子園の人ごみの中、茜は一人たたずんでいた。

真を乗せたバスを待っていたのだ。

港南学院選手を乗せた観光バスがやってきた。

するとテレビカメラ記者、追っかけの少女たちがわんさかとそのバスに走りよった。

「これはまずい!」と思い、茜も負けじとその人ごみに混じって走っていった。

パシャパシャとおびただしい数のフラッシュ。マイクを持つリポーター達。「徳永く~ん、遠山く~ん」という黄色い声援。

あたりはもうパニックだ。

立ち入り禁止の目印となる手すりの向うにバスが止まり、選手が次々と降りてきた。

すると陽一に続いて真が降りてきた。

「真!真!」茜が賢明に叫んでも「キャー」という声にかき消されしまう。



これはまずい。恵にお願いされた物を渡せない。



茜は腹の中から大きな声を出した「真!茜だよ!」

すると真はその声に気付き、あたりを見回した。

「真!真!茜だよ!」

すると真は、人ごみの向こうから茜の声が聞こえている事に気付き、なんと手すりを越えて人ごみの中へと入っていったのである。

真はベタベタとファンに触られ、もうあたりパニックだ。

「茜!茜!」真は人ごみの中で大きな声を出すと、茜が人ごみの中を掻き分けてやってきた。

すると真は「茜!」と叫んで、そのまま茜を抱き上げた。

甲子園のスターの突然の行動にあたりは静まり返ってしまった。

真は茜を抱き下ろすと「茜!来れたのか!」と言った。

「うん!見に来たよ!一塁側の内野席なの!頑張ってね!」

「ああ!」

すると係員が「君!戻ってきなさい!」と言って怒り出した。

「いけね。茜じゃあな」と言って去ろうとすると、「真、ちょっと持って。これ陽一君に渡して。恵からなの」と言って、赤い紙袋を渡した。

「わかったよ」と言って、真は紙袋を持ってその場を去っていった。

茜は「やった!渡せた!」と言って、その場でガッツポーズをすると、あたりの人から自分がひんしゅくをかっている事に気付いた。

そして「やばい!」と言って、その場を走り去った。



選手控え室で、陽一は真から渡された小さな赤い手さげの紙袋を開けていた。

すると中に一枚の手紙と黒いリストバンドが入っていた。

早速陽一はからの手紙を開いた。



大好きな陽一へ

この間は手紙ありがとう。

とても嬉しかった。

優勝できたらいいよね。

でももし優勝できなかったとしても、元気な顔で帰ってきて。

リストバンドを入れときました。

道具にうるさい陽一だから、イワサキスポーツで特別に注文したよ。

気に入らなかったら、後ろのポケットにでも入れてね。

私も甲子園に連れて行って。



恵から送られた黒いリストバンドは陽一の背番号8が白く刺繍されていて、裏に『恵』と小さく刺繍がされてあった。

陽一は普段飾り物は一切付けなかった。

だが、今日はこのリストバンドを付けて戦う事にした。

陽一はゆっくりと日に焼けた左手にそのリストバンドを装着すると、手首の位置の8という番号をじっと見つめた。

「恵、見ていてくれ」

そう言って、陽一は席を立った。



5万人の大観衆の甲子園は、一昨日と打って変わっての晴天。

浜風がライト方向へと、旗をなびかせる。

奥行きの深い天然芝の外野。そして真っ黒な土。

大正末期、この地で初めて全国高校野球というものが開催された。

そしてこのスタジアムは、これまでたくさんの英雄達をんできた。

戦争、戦後の混乱期、そして高度成長期・・・。

日本はこれまで沢山の時代の変革を迎えてきた。

だがそんな変わりゆく時代の中でも、野球は昔も今も変わらず愛され続けている。

そして沢山の夢を我々に与え続けていてくれる。



恵は病室でイヤホンを付け、由香子を気にしながらもこの決勝戦の中継を見ていた。

由香子は相変わらず、意識が朦朧としている。

たまに起きて、寝言程度に「恵・・・」と言うことがあるが、恵は由香子をそっと寝かしつけるのだった。

痛々しかった傷も随分治ってきた。

酸素マスクも数日前にとれた。

そして体につながれていた管も少しずつ減っていき、点滴だけとなった。

由香子がかなり回復してきているのが、恵にもわかった。

その証拠に、最近は痛さで、点滴を取ろうとしなくなったのだ。

おかげで看病も少し楽になってきた。

テレビを見ていると、ベンチに座る陽一がテレビに映し出されていた

そこには恵が茜にお願いしたリストバンドを、陽一が付けているのが見えた。

その姿を見ると「茜、ありがとう」と恵は言った。



港南学院は後攻となったので、守備練習は淀商の後となる。

グラウンドへ散っていった淀商ナインは、素晴らしく軽快な守備練習を行っていた。

甲子園球場、地元大阪代表の淀商の応援一色である。

港南学院は完全にアウェーである

それでもこの新戦力を応援する声も少なくない。

淀商高校の守備練習が終わると、今度は後攻の港南学院ナイングラウンドへ散っていった。

陽一はいつも以上にリラックスし笑顔で真や慎太郎と遠投を行い、まるで甲子園を楽しんでいるかのようだ。

そして時折浜風でなびく大会旗を見つめていた。


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