1、スカウトの旅(5)
「大谷君は半年前に、野球部を辞めたよ」
「そうなんですか・・・」陽一は少しガッカリした表情をした
「うん、やる気が無くなったとか言ってね。まあ確かに良い投手だったよ。しかしねえ」
「しかし何ですか?」
「大谷君は素行が悪いんだよ。まあウチの生徒はほとんどが悪いんだけどね」
実は箱根学園は、全国から「もう学校に来ないで欲しい」と言われた不良少年達の受け皿学校であった。
大谷清志朗という生徒は、
そして連発する校内暴力が原因で、遂に「もう学校には来させないで下さい」と学校側から言われ、平塚西中を追われた。
よって清志朗の親は、わが子をこの全寮制の箱根学園に預けたのだ。
だが陽一は橋本先生に「本人に会いたいのですが」と言った。
「まあ会うのはいいが、結構厄介な奴だよ。ウチのような学校でも、1、2を争う程のワルだからな」
「それでもいいです」
昼休みに会わせてくれるというので、恵と陽一は学校の近くの喫茶店に入って時間を潰す事とした。
そして二人は熱いカプチーノを飲んだ。
「陽一、ここ結構ヤバイ学校だよ。私思い出したんだ。2中で一番悪かった子もココの高等部に入学したもん」と恵は心配そうに陽一に言った。
だが陽一は「知ってるよ」とあっけらかんと言った。
「じゃあ、何故会うの?怖いじゃん」
「ワルだから会うんだよ」
「陽一が何考えているのか、さっぱりわからない」
恵は陽一のまた宇宙人的な所が出たと思って、呆れ返ってしまった。
すると陽一は「恵、野球は不良っぽい奴の方が向いているんだよ」と熱めのカプチーノに口をつけながら言った。
「どうして?野球には関係ないじゃん。格闘技ならわかるけど・・・」
「ウチの野球部見なよ。文麿や真のような悪がいる。だけどどうだ?そんな奴ほどピンチで大活躍してないか?」
恵は言葉を失ってしまった。
陽一の言う通りであったからだ。
文麿は、県大会準決勝で、全員が打てなかったアンダースロー投手をコテンパに打ちのめし、チームを勝利に導いている。
そして全国大会の初戦でも、サイクルヒットを放ってチームを一気に波に乗せた。
真もそうだった。
甲子園準決勝に放ったサヨナラホームランや、決勝戦の延長12回で修二がアウトになって結局負けはしたものの、あの2アウト満塁の場面で見事タイムリーを放っている。
そしてこの二人の共通点は、手が付けられないワルであった。
陽一の野球の哲学は『悪い奴はピンチに強い』であった。
昼休みの時間になり、陽一と恵は校舎の中へ入って行った。
生徒達は全員丸刈り頭だったが、目つきはとても鋭く今にも絡んできそうな感じがした。
あたりからは「おお!徳永じゃん!甲子園に出てた徳永じゃん!」「なんだよあいつ徳永の女か?徳永にしちゃあシケた女連れてんな」と恵の悪口まで聞こえてきた。
恵はあまりの恐ろしさで、そんな悪口に言い返す事も出来ず、ひたすら下を向いて廊下を歩いた。
やっとの思いで応接室にたどり着くと、応接室の中から「ガラガラガシャン!」という音が聞こえ、「何でそんな奴に会わなきゃいけねえんだよ!勝手に決めんじゃねえよ!」と怒鳴る少年の声が聞こえた。
すると、バキ!っと人を殴る音が何発もなった。
その音を聞いて陽一は、咄嗟に応接室へ入った。
すると橋本先生が、生徒を何発も殴っていた。
あわてて陽一が橋本先生を止めに入ると、殴られていた生徒は「これだからムカツクんだよ。反抗すればすぐ暴力だ」と言って、応接室を出て行った。
「あの野郎・・・調子コキやがって」橋本先生は捨て台詞を吐き、そして「アイツが大谷だよ」と言った。
恵と陽一の二人は呆然とした。
何がなんだか理解が出来ず、恵と陽一は校門を出ると、公園のブランコに清志朗がいるのを見つけた。
すると陽一は「恵、悪いけど飲み物買ってきて欲しい」と言って、恵に500円玉を渡した。
「あの子と話すの?」
「ああ」
「じゃあちょっと行ってくる」恵はジュースを買いに行った。
陽一はブランコに乗る清志朗に歩み寄った。
「大谷」
「あん?徳永じゃん。港南の人が来るって聞いたから、監督でも来るのかと思ったよ」
「俺がスカウトやってるんだ」
「変な学校・・・でっ俺に何の用だよ」
「実は、野球の腕を見てみたいんだ」
「お断り。俺、野球やらねえ」
「何でだよ?いい素質持っているって聞いたぞ」
「ガセだよ」
「ピッチング見たいんだよ」
「嫌だ」
このように押し問答を続けていると、恵が暖かい缶コーヒーとミルクティーを持ってやってきた。
恵を見た清志朗は「お姉ちゃん!」と言って驚いた。
「えっ?何?お姉ちゃん???」恵もいきなり清志朗に姉ちゃんと呼ばれて、驚いた。
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