フォーエバー・フレンズ -304ページ目

1、スカウトの旅(4)

金曜日、古屋監督は珍しく学校へやってくると、司がホーム上から外野ノックをしていた。

そして、アメフトのヘルメットを被った由香子が、外野にいたので驚いた。

由香子はノートパソコンを膝の上にのせて、陽一、真、慎太郎の守備練習の内容をカタカタと打っていたのである。

これは『原ノート』のデーターとなる資料であり、古屋監督への提出レポートでもあった。

司から教えてもらった事を、黙々とやっていたのだ。

その姿をみて古屋監督は感心した。

ベンチで選手を見るのではなく、由香子は外野の位置で選手達を見ているのだ。

そしてボールが飛んできても、車椅子を自在に操って陽一達の守備妨害とならないように操作していた。

「こいつは凄い」古屋監督は思わずそう言ってしまった。

今日古屋監督がやってきたのは他でもない。

実は良い選手が見つかった為に、陽一に教えにきたのである。



古屋監督と陽一は部室で会った。

「陽一、大変だな。個性派揃いで」と古屋監督は笑って言うと、陽一も思わず笑ってしまった。

「ところで、こんな選手どうだ」と言って、古屋監督は机の上に資料を置いた。

『箱根学園中学 大谷清志朗 右投げ右打ち 身長178cm 体重75kg』

「私立中学の硬式野球ですね」と言って陽一は資料をじーっと見つめた。

「実はな、去年の秋に鎌倉シニアと対戦したんだが、1回だけこの大谷ってのが投げたんだよ。その時多分こいつ2年生だったが、135km/h超えていたと思うんだ。もしも成長していたらもっと速くなっている筈だよ。もち球はスライダーとシュートだった。キレのあるいい球だったよ」

「監督、でも箱根ですよ?通うの無理でしょ」

「わけあり学校なんだよ。まあ行ってみればわかる。交通費は学校が出すと言っているから行って来い」



次の日の土曜日、陽一は箱根へ飛ぶ事となった。

旅のメンバーは陽一と恵だけだった。

実は『ヲタク司』はその日は『宇宙空間暗黒物質の謎』というわけのわからないセミナーに参加するために行けなくなってしまったのだ。

なので、陽一と恵の二人旅になってしまった。

しかも箱根である。



恵と陽一は大船駅で待ち合わせして、朝7時の東海道線に乗った。

そして二人は電車の中で「イエーイ」と言って、ハイタッチした。

一ヶ月前に陽一の子供の頃からの憧れの富士急ハイランドへ行ったが、それ以来の遠出だった。

なにしろ夏は野球が忙しかったし、秋の初めは例のゴタゴタがあった。

だからまるで、これから旅行にでも行くかのようにようだ



小田原駅で降りると、二人は箱根登山鉄道に乗った。

列車がしばらく走って大きな鉄橋に差し掛かると、一面に紅葉の山が拡がった。


写真素材 PIXTA
(c) blue horse写真素材 PIXTA


恵は、箱根登山鉄道の窓から見える美しい秋の箱根の紅葉をみると、とても感激したように「すごいキレイ」と言った。

「そうだな、でも箱根ってやっぱ寒いよな」と陽一は言って、もっと厚手のジャンバーを持ってこればよかったと思い後悔した。

目的地の箱根学園は、終点の強羅という駅を降りて、20分ぐらいのところにある。

二人は手をつないで強羅駅を出ると、みたらし団子を一本ずつ買って食べながら、もみじの赤みがポツリポツリと立ち並ぶ街路を歩いた。

「いいよね。こんなところに学校があるなんて」

「全くだよ」

そんな話をしながら、ブラブラと箱根の街を歩くと、やがて二人の目的地である箱根学園が見えてきた。

それは綺麗なレンガ風の校舎だが、高い塀に囲まれた何処か閉塞感に包まれたような校舎であった。



職員室に入ると、何故か強面な男性教諭が多く、近寄りづらいオーラが漂っていた。

「あの・・・すみません。橋本先生はいらっしゃいますか?」と陽一が言うと、奥から極道が着るようなスーツ姿の小柄な男がやってきた。

そして「港南の徳永君だな。あえて嬉しい」と言った。

彼は橋本先生と言い、この箱根学園の野球部の顧問である。

陽一と恵は橋本先生に連れられ、そのまま応接室に通された。


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