フォーエバー・フレンズ -305ページ目

1、スカウトの旅(3)

最初の3人の訪問先は、『川崎ボーイズ』と言うシニアチームである。

「遅いよ、港南さん。有力選手の進路なんて今年の春に全部決まっているよ」と、このチームのコーチが言うと、陽一は「やっぱりそうですか・・・」と言って肩を落とした。

「あの、有力選手の情報はありませんか?」

「う~ん・・・そうだなあ・・・」と川崎ボーイズのコーチは腕組みしてしばらく考えると「弱小チームならスカウトも来てないだろうから、そこから発掘するしかないね」と言った。

次に3人は蒲田へと向かった。

蒲田は文麿の家があるので、陽一はここまでを通学可能圏内としていた。

電車の中で、陽一はさっきとは打って変わってうなだれていた。

「そうだよなあ・・・もう11月だもんな・・・やっぱ遅いよ・・・」

「仕方ないよ徳永君。それどころじゃなかったもん」




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(c) rupikka写真素材 PIXTA


そして蒲田シニアの練習場である河川敷のグラウンドに到着すると、陽一は真剣な眼差しで投手陣の投球練習を見ていた。

すると陽一は10分程で「司、行こうか」と言って河川敷を後にした。

「ねえ、駄目なの?」と恵が言うと、陽一と司のアンバランスコンビは、高さこそ違うが、全く同じように首を横に振った。

「どうして?みんな速いじゃん」

「あの手のタイプなら、中学校の倶楽部でも一杯いるよ」と陽一は言った。

恵は「ねえ、なんでシニアチームってとこに行って、中学校の野球部には行かないの?」と言った。

その恵の質問に「軟式野球からだとちょっとね・・・」と陽一は言った。

陽一も司も軟式野球の投手が、いきなり硬式野球の投手として活躍できるとは思っていなかった。

陽一の父親もそういう理由があったので、陽一に軟式野球をさせなかった。

父親の意向で、陽一は軟式野球をさせてもらえずに、無理矢理シニアチームに入れられ、そして中学校では陸上部の100mの選手だった。

友達と一緒に中学校で軟式野球をやりたかった陽一は、その時父親にものすごく不満を思っていた。

しかしそれから5年経った今、自分も死んだ父親と同じような事を言っているのである。

陽一はそんな昔の事をふと思い出し、複雑な気持ちで多摩川の堤防沿いの道を歩いた。



俺・・・親父と一緒なんだな・・・。



恵はそんな陽一の後ろ姿がとても素敵に見えた。

そして「かっこいい・・・私の陽一・・・」なんて思ってウットリしていると、陽一は「そうだ司、ここ東京の大田区だよな」と突然言い出した。

「そうだよ」

すると陽一は「『携帯国取りゲーム』やらなくっちゃ。大田区まで滅多に来れないからさ」と言って携帯電話を開いた。

恵のラブラブモードはその瞬間に完全に崩れて去っていった。



なんなんだろう・・・このギャップ・・・。



結局この日4チーム回ったが、収穫は無かった。



夕方のJR横須賀線は満員だった。

司が東戸塚駅で降りると、扉付近で恵と陽一は体を寄せ合った。

すると恵は『I POD』のイヤホンを取り出し、陽一の左耳に付けた。

イヤホンの向こうから、陽一の好きな『Bz』の曲が流れていた。

「Bzじゃん」

「えへへ。偉いでしょ」と言って恵は笑った。

恵は陽一の胸にもたれながら、もう片方の『I POD』のイヤホンで聞き慣れないBzの曲を聴いた。

そして電車の中から見える横浜の夜景を、恵はずっと見ていた。



次の日の朝、恵は由香子の車椅子を押しながら、鎌倉を歩いていた。

毎朝恒例の『由香子様』の通学である。

「由香子、何それ」恵は由香子が膝の上に、大きなヘルメットを置いているのを見て聞いた。

「アメフトのヘルメット。昨日パパに買ってもらった」

「何に使うの?」

実は金曜日の野球部の練習で、由香子は死に掛けたらしい。

バッティング練習中に、真が放ったボールがベンチにいた由香子に向かって飛んできたのだ。

由香子は車椅子ごと、横っ飛びしてなんとかかわしたが、車椅子は倒れて、由香子も地べたに倒れ、あたりは一瞬騒然となった。

だが由香子は地べたに倒れながらも真に「真!危ないなあ!この下手くそ!」と言ったのだ。

さすがの真もこれには苦笑いした。

万が一真の打った球が頭に当たったら絶対に死ぬと思い、咄嗟にヘルメットの着用を思いついたのだ。

「だってね、頭もそうだけど、顔も大切じゃん。だからアメフト用のヘルメットにした。人と違うところはもう足だけで十分だよ」

由香子の言葉に恵は驚いた。



由香子は歩けなくなっても、なんでこんなに強いの?

私だったら、絶対こんな風にはなれない。



「それとね恵、私文麿と別れたから」

「ええ!なんで!だって・・・一ノ瀬君一生償うって・・・言ったよね」と恵が聞くと、由香子は「私が別れようって言ったの」と言った。

そして「償いとか言って、傍にいられるのは迷惑。大体アイツ気が利かないもん」と言った。

恵は由香子の強さに圧倒されてしまった。

この間まで、リハビリに連れて行ってと言って泣いてたのに・・・。

こんな体で結婚できるかなって悩んでいたのに・・・。

「私ね、好みのタイプ変わったんだ。この間までは1にルックスで2に面白いトークだったけど、この体になってからそれは2と3になって、今は自分の手足となって動いてくれる人がタイプなんだ」と堂々と言ってのけた。



鎌倉駅から電車に乗ると、車内は朝のラッシュであった。

その電車に車椅子ごと乗ると、由香子は再び恵に話し出した。

「恵、立っていると疲れるでしょ。でも私、立たなくていいから楽だよね。それに車椅子の私がきたらみんな避けてくれるしね」と言って由香子は笑った。

恵は本当に感心してしまった。

いいのか悪いのかは分からないが、とにかく物凄く前向きな生き方をしていると思った。

それだけではない、由香子はこの1ヶ月間野球部のマネージャーをやっているが、陽一!真!司!と同学年の部員を下の名前で呼び捨てするありさまで、ノックでエラーをしようものなら「この下手くそ!」とまで言うのだ。

この間までは「徳永く~ん」と黄色い声援を送っていたのに・・・。

既に野球部はこの車椅子の女帝に支配されてしまっているのである。

修二はそんな由香子を影では『サッチー』と揶揄していたのだ。


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