3、キャッチャーの魂(1)

(c) Fu++ |写真素材 PIXTA
真と、三つ編姿の茜は、今朝も京急線に乗って一緒に通学をしていた。
「茜、クリスマスイブの日、何か用事あるのか?」
「何も無いよ。全然考えてない」
「ウチの野球部で、クリスマスパーティーやる事になったんだよ。茜も来ないか?陽一が茜も是非って言ってるんだ」
「クリスマスパーティー?学校でやるの?」
「ああ、部室でやるんだ。劇もやるんだぜ」
「劇???何の劇?」
「お楽しみさ」と言って真は笑った。
すると茜は迷わず「行く!」と大きな声で言った。
茜も恵と同様に、幸せな毎日を過ごしていた。
冬になっても、相変わらず真は野球の練習で大変だが、以前よりは少しだけ会う時間も増えた。
そして茜にとって真は、なによりもかけがえのない存在になっていた。
その日の夜、髪をおろした茜と真は一緒に帰った。
そして二人は金沢八景駅で降りると、茜の家の方へぶらぶらと歩いた。
「寒いね・・・」マフラー姿の茜がそう言って少しだけ震えると、真はスポーツバックからウインドブレーカーを取り出して「これでも着ろよ」と言った。
茜がウインドブレーカーを肩にかけると、少しだけ真の匂いがした。
「真、これ汗臭いよ・・・」
「仕方ねえだろ。それ着て練習してんだから。臭かったら返せよ」
茜は「イヤだ」と言って笑いながら、ウインドブレーカーを肩にかけたまま走り出した。
「じゃあな茜」
「また明日ね」
二人はそう言うと、茜の家の近くの路地で別れた
すると一人の中年女性が「茜」と名前を呼んでやってきた。
茜の母だった。
「ママ・・・」
「何なの?あの悪そうな子?」
「悪そうな子????」
茜は自宅に帰ると、早速母親とバトルを始めた。
「あんな不良っぽい子と付き合っちゃだめ!大体学校で男女交際禁止でしょ!アルバイトだって禁止なのに・・・」
「なんで?真がどんな人だかわかるの?」
「知らないわ!それに港南なんてレベルの低い学校・・・死んだお父さんになんて言ったらいいのか・・・」
母のその言葉に、茜は更にヒートアップした。
それは親友の恵までも馬鹿にした発言だったからだ。
「港南じゃ悪いの?港南の人みんないい人だよ。スカジョなんて世間知らずの馬鹿ばっかりじゃん!」
「茜、今までどれだけお金がかかったと思ってるの?小学校から私立にいれてるのよ」
「知らない。だいたい私が行きたいって言った訳じゃないじゃん。とにかく私は真と絶対に別れない」
茜はそう言うと、居間の扉をバタンと閉めて、二階の自分の部屋へ行った。
恵はバイト後、帰宅して、一人で晩御飯を食べていた。
恵にとっての至福のひと時だった。
すると向い側の椅子に座ってビールを飲んでいた父が「恵、いつになったら徳永君をつれてきてくれるんだ?」と聞いてきた。
「そうだよ姉ちゃん」淳紀も父に続いてそう言った。
「忘れてた・・・・」
なにしろ清志朗の問題があり、ここ最近日曜日はずっと忙しかった。
そしてあれこれやっていると、あっという間に12月になってしまった。
「わかった。陽一に言っとく・・・」恵はそう言って再びご飯を食べだした。
恵の父はずっと陽一と会いたがっていた。
理由は野球好きだからである。
次の日の休み時間、恵は陽一にその事を話した
「いい加減陽一を連れて来いだって。どうする?嫌かな?」
「ああ、いいよ。俺もいい加減行かないといけないって思ってたんだよ」
「今週の土曜日なんてどう?」
「いいよ」
「それじゃ陽一の為に、お鍋を用意するよ」
「いいなあ。鍋、好きだよ・・・」そう言うと、陽一は口をポカンと開けた。
そんな陽一を見て恵は思わず噴出してしまった。
「陽一、口が開いてるよ!」
そしてその日のバイトが終わると、茜と恵は休憩室でいつものように話していた。
「そうか、いよいよ陽一君のご対面だね」
「そうなんだ。でも別に大した事じゃなくて、お父さんと淳が野球好きなだけなんだよ。淳は野球やってるからいろいろ聞きたいみたい」
「恵はいいなあ・・・」茜はふとそうもらした。
「どうしたの?」
「私、真と付き合うのママから反対されてるんだ」
「そうなの?どうして?」
「真が不良っぽく見えるからでしょ。頭にくる。いっつも頭ごなしに言うから・・・」
「それじゃ茜、どうするの?」
「もちろん付き合う。そんな事聞いてられない」
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