フォーエバー・フレンズ -298ページ目

2、姉との思い出(5)

11月も後半に差し掛かった日曜日、恵は平塚駅で降りた。

前日に恵が清志朗に連絡を取ると「平塚で会いたい」と言ってきたので、平塚駅で待ち合わせる事とした。

恵が平塚駅の改札口を降りると、清志朗が待っていた。

そして二人は、そのまま平塚の湘南海岸へと向った。

「徳永さんには内緒で来たのか?」

「ううん。ちゃんと言ってるよ」

「やきもち妬いたりしねえのかよ」

「しないよ」

「恵さん、信頼されてるんだなあ・・・」

「無頓着なだけだよ」と言って恵は笑った。

「あの徳永さんが無頓着?」

清志朗にとって陽一は、甲子園でのイメージが強い為、無頓着と言うのが信じられなかった。

そんな清志朗に恵は「うん」と言って、笑ってうなずいた。



そして二人は海岸沿いの防波堤に座って海を見つめた。

「徳永さんと恵さん見てると、羨ましいよ」

「どうして?」

「徳永さんが無頓着って知ってるの恵さんだけじゃないか?徳永さんは恵さんが好きだからそんな無頓着なところを平気で見せてるんじゃないかな?」

「気を使ってないだけだよ」と言って、恵は少しだけ笑うと「なんで平塚で会いたいって言ったの?」と清志朗に聞いた。

「なんとなく平塚で会いたかったんだよ。俺の生まれ育ったとこだからさ・・・」

そう言って清志朗は黙って海を見つめた。

「お兄さんと会ったよ。恵理さんていうお姉さんの話も聞いた」

恵の言葉に清志朗は黙っていた。

「可愛がってもらったんだってね・・・」

すると清志朗は閉ざしていた思いを、恵に開いた

「ああ・・・お姉ちゃんは俺が親父に怒られるといつもかばってくれた。俺の野球の試合も、お姉ちゃんだけがいつも応援しに来てくれた・・・」

そう言うと、清志朗は晩秋の湘南の空を見上げた。

そしてカバンの中からグローブを取り出した。

「これ、お姉ちゃんが死ぬ前に、近所のスポーツ店に電話して注文してくれたのさ。これを取りに行く前の日にお姉ちゃん死んだんだよ・・・中学でも野球やるでしょって言ってね・・・」そう言うと清志朗は、涙が込み上げてきて、言葉を詰まらせた。

「俺・・・そんなお姉ちゃんの気持ちずっと忘れてたよ・・・」

清志朗は涙をこぼした。

「お墓どこにあるの?」

「すぐ近くの霊園だよ・・・」

「お墓参りちゃんとしてるの?」と恵が聞くと、清志朗は首を横にふった。

「2年ほど行ってないよ・・・」

「平塚で会いたいって言ったのは、お墓参りをしたいと思ったからじゃないの?」

すると清志朗は、こぼれた涙を拭った。

そして「わかんねえよ・・・」と言って、涙ながらに空を見上げた。

「清志朗君、今からいこうよ。お姉ちゃんに会いに行こうよ」



そして二人は花屋で墓前に捧げる花を買い、恵理が眠る墓地へと向かった。



写真素材 PIXTA
(c) レイ写真素材 PIXTA


『大谷家之墓』そして墓石には、『大谷恵理 享年 二十二歳』名前と数え年の年齢が彫ってあった。

恵が墓前に花を捧げると、清志朗はすすり泣くように泣き出した。

「ごめん・・・お姉ちゃん・・・あんなに可愛がってもらったのに・・・俺、悪さばかりやってさ・・・あんなに可愛がってくれたのに、お墓にもろくにこないでさあ・・・ごめんよ・・・ごめんよ・・・」清志朗はそう言ってひたすら泣き続けた。

清志朗はこのお墓にやってきて、自分の心に正直になれた気がした。

姉とともに生きていたあの時のように・・・。

「清志朗君、私も弟がいるけど、お姉さんというのは弟の多少の不始末ぐらいは許してあげられるものなんだよ。お姉さんは清志朗君の事怒ってないよ。だからこれから頑張ろうよ。お姉さんの為に頑張ろうよ」

「うん・・・」

そして清志朗の心に、野球に燃え上がる気持ちが戻ってきた。



しばらくすると清志朗の父が、この恵理の墓にやってきた。

「清志朗・・・」

二人は顔を見合わせた。

清志朗の父も、恵理の事を思い出し、1年ぶりにこの墓を訪れた。

「親父・・・」

「清志朗、お前はもうこの家の人間ではない。この墓にも二度と来るな」そう言うと、父はお墓にお線香をあげた。

恵は「そんな!お父さん!・・・」と言い出すと、清志朗は急に土下座をついた。

そして「お父さん!お願いです!家に住ませてください!港南で野球をやりたいです!」と言って、清志朗はおでこが地面にくっつく程頭を下げた。

「清志朗君・・・」

「だから家に住ませてください!もう迷惑はかけません!お願いします!」

清志朗の父は、恵理のお墓に手を合わせ終えると、ゆっくりと立ち上がり「勝手にしろ・・・」と言って去っていった。



清志朗と別れた後、恵は東海道線に再び乗って、陽一の住む大船駅でおりた。

そして二人は、暗くなった近所の公園のベンチに座って喋っていた。

「そうか・・・やっぱり恵が鍵になったか」

「よくわからないんだけどね。ひょっとして恵理さんがこのスカウトの旅に私を呼んだのかな?」

「そうかもしれないな。いや、きっとそうだよ・・・」



清志朗の進路が決まった。

4月から港南学院高校へ入学し、陽一達と甲子園を目指す事となった。



そして人一倍気の強い清志朗は、この日から『燃える男』となった


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