4、本当の気持ち(4)
次の日、仁科先生は校長室に呼び出された。
そして昨日の暴挙に対し、始末書を書かされたのだ。
「仁科先生、困りますよ。あなたが問題を起こして、夏の大会出場停止になったらどうするのですか?」
あまりにもの校長の正論に、仁科先生は下を向いてしまった。
だがその後校長はフォローもした。
「でもまあ、同じ女性だからあそこまで踏み切ったんでしょうね。気持ちは分かりますよ」と言って笑ってもくれた。
「あの・・・校長、この問題はどうしたらいいのでしょうか?」
校長は首を横に振った。
「無理です。横須賀女子高にも立場があるのです。厳格な厳しい学校だから、保護者の方も娘さんを安心して預けているのですよ。その子だけ特別なんて許されないでしょう」
「でも、遠山君と茜さんの素敵な思い出は・・・」
「それは、二人が考える事です。あなたが考える事じゃない」
仁科先生はまた下を向いてしまった。
おせっかいだった・・・。
でもそれが仁科先生のいいところでもあった。
昼休み、陽一と真は野球部の部室にいた。
「陽一、なんだよ?急に呼び出してさ」
「なんで茜ちゃんにあんな事言ったんだ?」
「あんな事ってなんだよ?」
「付き合ってる女が、3人いるって言ったんだろ。いないだろ」
「いるんだよ」
「いないだろ?」
「陽一!うるせえな!お前には関係ねえだろ!」
「ああ、関係ない。でもな、俺は真のやり方は間違っていると思う」
「何がだよ!」
「二人の問題を、一人で決めてるからだよ。全てお前の勝手な判断じゃないか?」
真は陽一の言葉に黙り込んでしまった。
そして少し時間を置くと、真は冷静に話し出した。
「茜は強情なとこがあんだよ。俺が止めても、あいつは学校辞めるって言う。それだったら、気持ちよく別れたほうがいいだろ・・・」真は少し寂しげにそう言った。
陽一は少し考えた。
「お前の気持ちはわかった・・・ただな・・・俺は仙台学園を退学しているからわかるんだけど、学校を辞める事がそんなに間違っているとは思わない。逆に新しい道が開けて良くなる場合だってある」
そう言って陽一は部室を出て行った。
その晩、恵と茜は携帯電話で話した。
茜はしばらくの間、バイトを自粛する事になったからだ。
「えっ?スキー?」恵は茜の突然の誘いに驚いた。
「そう。日帰りでスキーに行かない?傷心スキーツアー。陽一君も一緒に」
「いっ・・・いいけど・・・私なにも持ってないよ。それに茜、停学中でしょ?」
「いいの。道具は全部貸してあげるよ。このスキーツアーで全部忘れるから・・・じゃあね、おやすみ」
茜はそう言って電話を切った。
恵は部屋の中でしばらく考えていた。
「茜・・・本当にそれでいいの?」
金曜日の晩、茜と恵は横浜駅の夜行バス乗り場の前で、荷物を持ちながら陽一を待っていた。
「本当に陽一君なにもいらないの?」茜は少し心配そうに言った。
「そう言ってたよ」
「道具ぐらい用意してあげるのに。パパのお古だってあるし」
「陽一の考えてる事はわからない。深く考えてたら病気になる」
すると陽一が「お待たせ」と言って現れた。
茜と恵は、陽一の姿を見て驚いた。
なんと手荷物は一切なしで、しかもGパンにジャンバー姿。
それはまるで、これからコンビニエンスストアへ買い物に行くかのような格好だった。
「陽一!何処行くと思ってるの!」恵が陽一を叱ると、陽一はあっけらかんと「スキーだろ」と言った。
「陽一!」
「全部現地で借りるよ。余分な荷物は持たない」そう言って、我先にとばかりスキーバスへと乗りこんで行った。
「またこれだ・・・」恵が頭を抱えると、茜は陽一の行動に大笑いしだした。
「あははは、陽一君って面白いんだね」
「B型だもん。宇宙人なんだよ」恵は半分呆れてそう言った。
「でもさ、ある意味合理的だよ。確かに現地で全部借りれるもん。新しいスキーライフだよ」茜はそう言って笑った。

(c) M.F.S. |写真素材 PIXTA
そんな宇宙人な陽一も、スキー場に着くと一気に変身した。
借り物ばかりのスキー道具で身を包んだ陽一は、ゲレンデの誰よりもかっこよかった。
頂上からパラレルで滑り降りる陽一を見て、二人は「すごーい!」と声をあげた。
そしてバババッと雪煙をあげて二人の前で止まった。
「陽一、凄いじゃん!やった事あるの?」恵がラブラブモードで話しかけると、陽一は「昔ちょっとだけ」とぶっきらぼうに言って、再びリフトの方へと向かった。
恵は「ねえ、茜も陽一と一緒に滑ってきなよ。私もう無理。挫折する」と言ってスキー板を外しだした。
「ええ!いいの?やきもち妬かないでよ」
「大丈夫、大丈夫」
茜は「じゃあ、行ってくるね」と言って、陽一の後を追った。
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