4、本当の気持ち(3)
真は自宅に帰っていた。
すると理子が「おにい、これいらない」と言ってクリスマスプレゼントを返してきた。
「何でだよ」
「だってこれ茜ちゃんに渡すつもりだったんでしょ」
「最初からお前に渡すつもりだったよ」
「うそつき。ちゃんと茜ちゃんに渡しなよ」
理子はそう言ってプレゼントをテーブルの上に置き、自分の部屋へと去っていった。
真はその赤く包装されたプレゼントを見ると、悲しそうな目をした。
「茜・・・これでよかったんだ・・・今まで楽しかったよ・・・」
仁科先生はずっと真と茜の事を心配に思っていた。
恋愛を取るか学校を取るかの選択なんて間違っている。
そんな決断自分だってできる訳ないのに、生徒にそんな事押し付けるなんて・・・。
そんなの絶対に許せない。
真と茜の微笑ましい思い出を知る仁科先生は、横須賀女子高の暴挙をどうしても許す事ができなかった。
そして仁科先生は決断に踏み切った。
そうだ横須賀女子高に行こう。
次の日の放課後、仁科先生は横須賀女子高の校門へとやってきたが、守衛がどうしても校内に通してくれない。
「お願いです。校長に合わせてください」
「駄目です。校長が会わないと言ってますから」
「お願いです!」
「いきなり来られても困ります。アポ取るのが礼儀でしょ」
この言葉で、仁科先生は一気に怒りが爆発した。
「あなた方が突然ウチにやってきても面談に応じたのに、よそからの突然の面談には応じられないのですか!勝手じゃないですか!あんまりじゃないですか!」
仁科先生が校門前で騒ぎ出すと、校舎から職員達が一斉に出てきた。
「警察呼びますよ!」
「呼んだらいいじゃないですか!ひどい事しているのはあなた方のほうじゃないですか!」
仁科先生と横須賀女子高の先生とが、もみくちゃになりだした。
バイトに行く途中、恵はたまたま横須賀女子高の校門前を通りかかった。
そしてその時、仁科先生が校門前で暴れているのを目撃してしまった。
「大変!」と言って恵は陽一に電話をしながら、スカジョの校門へと走り出した。
そして「陽一、とにかく来て!大変なの!」と言って電話を切ると、仁科先生を止めだした。
「先生!ダメだよ!警察くるよ!」
「山野さん、止めないで!校長と会うまでは絶対に帰らない!」
そんな押し問答を繰り返していると、ユニフォーム姿の陽一が俊足を飛ばして駆けつけてきた。
「先生!やめろよ!マズイよ!」
突然の陽一の登場に、スカジョの女生徒まで一斉に出てきた。
「キャー徳永君だー!」
もうあたりはパニックだった。

(c) Susumu |写真素材 PIXTA
その日の晩、陽一と恵は仁科先生の行きつけの居酒屋に行った。
それは古い赤提灯の店で、とても女性の行きつけとは思えない様子の店だった。
仁科先生は生ビールを豪快に飲み干すと「ふう・・・」といって、店の親父に「おかわり!」と言った。
仁科先生のヤケ酒に、陽一と恵の二人は戸惑いながら、ウーロン茶を飲んでいた。
「私ね・・・遠山君は、あの茜って子と出会ってから変わったと思うんだ・・・」
確かにそうだった。
茜が真を禁煙させて、遅刻も止めさせ、そして野球に打ち込むようにも薦めた。
それから真は一変して野球に打ち込み、見事甲子園に行くまでになった。
「そんな事も知らないで、学校か恋愛のどちらかを取れなんて・・・教育者として許せないの・・・」仁科先生は酒が回ってきたのか、更に涙もろくなってしまい、涙をポロポロと流した。
「やっぱりそうだったのか・・・」陽一は真の本音が初めて分かった。
「先生、でも・・・このまま茜と遠山君が付き合うと、退学になってしまうんですよね」
恵がそう言うと、仁科先生は「そうよ」と言った。
仁科先生はいつの間にか焼酎をロックで飲んでいた。
そして酔っ払って「でもね・・・学校が人生の全てじゃないんだよね・・・私、高校は県内でも一番の進学校にいて横浜国大にまで進学したけど、今は年収300万の契約教諭よ」
仁科先生は、自分のグラスにボトルキープしている芋焼酎を注ぎだした。
「それでね、この間中学の同窓会やったんだけど、物凄い不良だった子が、今IT企業の社長やってるのよ。六本木ヒルズに会社があるんだ・・・人生なんてどうなるかわからないよ。野球を知らない私が甲子園に行ったようにね・・・」そう言うと、焼酎のロックを一気に飲み干した。
仁科先生は店を出ると、少しふらつきながら汐入駅まで歩き、電車で帰って行った。
先生と別れた陽一と恵の二人は、いつものように横須賀駅へ向かって歩いていた。
「陽一、どうする?茜にこの事言う?」
「恵ならどうする?」
結局結論が出ずに、二人は黙り込んだ。
茜にこの事を言えば、スカジョを退学して真を追いかける。
言わなければスカジョには残れるが、真を誤解したまま全て終わってしまう。
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