フォーエバー・フレンズ -28ページ目

7、男の修行(4)

3日後、西原開発工事の4人は、南足柄の第17工区現場へとやってきた。

地下10mの発進抗から距離にして16mを掘りぬく工事である。直径1mのまさしく大型管の工事である。

鳥のさえずりが聞こえ、美しい自然に囲まれた南足柄。いまここに西原開発工事の第一回目の工事が始まろうとしていた。





全員で現場事務所へ行くと、なんとここのJVには丸和工務店が入っている事に気が付いた。なんとこの工事の元請は丸和工務店だったのだ。そしてプレハブの事務所を開けると、そこにはかつて圭一郎が見慣れた面々がそろっていた。六本木ヒルズ時代の圭一郎の腹心達である。みんな左遷されてここへやってきたのだ。

「野島部長!!!」

圭一郎はその光景を見て思わず驚いてしまった。



そして工事開始前に、少しだけ話に花を咲かせた。

「いやあ、まさかこんなところで野島部長に会うなんて」

「全くです。皆さん元気でしたか?」

「あはは。なんとか元気にやってますよ。それに現場もなかなかいいもんです」

同感だった。一見華やかに見える六本木ヒルズ本社も、実はしがらみだらけの毎日。しかし現場にいると少なくとも、目の前の事に一生懸命になる事が出来た。それは圭一郎も、左遷された社員も全くの同じ事だった。

そして元部下の男は「野島部長。この山はかなり大きな石がでます。なので誤差プラスマイナス10cmまでは、なんとか役所に言って都合つけますので、安心して工事してください」と言って、ニッコリとほほ笑んだ。

「助かります」



普通の工事だと、大体設計図面より6cmの誤差を許容範囲としてくれるものだが、丸和工務店事務所の計らいで、10cmの誤差まで容認してもらえたのだ。



そして圭一郎は、吉村と一緒に立坑内でマシンの据え付けを開始しだした。ロープを使って地上から据え付け用のH鋼や工具をテキパキと降ろす川崎。

圭一郎は溶接の火花を散らせながら、着々とベビーモールマシンを取り付ていく。なにせ大型管なので、かなり頑丈な溶接をしなければならなかった。

溶接のスパークの光がピカピカとの光る立坑内。そんな中優太は、ぼんやりとその様子を見つめていた。



マシンの設置が終わったのはその日の夕方頃だった。据え付けが終わると、優太は発進口のライナー鋼部分に5cm程の穴をあけ、立坑付近の土質に探りを入れだした。

発進口からバールでグサグサと何度も土壌を突き刺す優太だが、今日は少し難しい顔をした。

「優太どうだ?」

圭一郎が心配そうな顔でそう尋ねると、優太は「この山は難しいな」と一言。

「石か?」

「ああ、どうも30cm程の玉石がゴロゴロしてやがる。水っ気も全くないかなり固めの山だ。おそらく途中、玉石ではじかれてコースや勾配が狂う事も考えられる」

「一応は10cmの誤差は大丈夫と言ってもらえてはいるけど」

「ああ、だがドンピシャを目指す。それが俺のポリシーだ」

優太の職人としての誇りに火が付きだした。

そしてこの日は近くの民宿へと泊った。東京まで帰るのも酷だった為、あらかじめ宿泊先を用意していたのだ。








翌朝、作業を開始しようとしていた矢先に、大変な事態が起こってしまった。

なんと青田社長が抜き打ちの視察にやってきたのだ。いきなりの社長の登場に、現場の雰囲気は一気に凍り付いてしまった。

そして圭一郎が工事現場のトイレから出ると、そこでバッタリと青田と出くわしてしまう。



「これはこれは圭一郎さん。また何故こんなところへ」

「推進工事です」

「あはは。職人をやられているのですか。まさしく臥薪嘗胆ですね」

「違います。好きでやっています」

「あはは。好きでモグラになるなんてマゾそのものですね」

「違います!この仕事に誇りを持っています!この仕事をバカにしないでください!」

すると背後から「黙れ野島!」と太く大きな声がした。振り返るとそこには優太が立っていた。

「優太・・・」

「すみません。ウチの者が失礼な口を聞いて」

そう言うと優太は青田に対し、深く頭を下げた。

モグラと言われて一番悔しかったのは優太だった筈。しかし優太は、そんな挑発にのる事もなく、元請会社の社長に対し冷静な対応をしたのだ。

その姿を見て、圭一郎の目から涙がこみ上げてきた。恥ずかしかった。自分の幼稚さが恥ずかしかった。本当に誇りを持てるなら、優太のように立派な対応が出来た筈だった。

なのに自分は・・・。

そう思うと、圭一郎も優太同様「申し訳ございませんでした」と言って青田に深く頭を下げた。

すると青田はさらに上から目線で圭一郎を挑発した。

「いつまでも丸和気分でいないでください。ちゃんとメリハリはつけなさい」

「はい。すみません」

怒りでプルプル震える体を我慢し、こみ上げる悔し涙も我慢し、ひたすら深く頭を下げ続けた。耐える事。それは男の修業である。