フォーエバー・フレンズ -27ページ目

7、男の修行(5)

すると青田は「おい!」と言って、丸和工務店の社員を呼びつけた。そして「ここは誤差どれだけ認められるんだ?」と聞き出した。

青田がそう尋ねると、丸和の社員は「難しい山なので10cmぐらいまでは良いと許可いただいております」と言って、施工図面を開いた。

「ダメだ」

「え?」

「1ミリの誤差も許さん。図面通りキッチリと仕上げろ。それが丸和工務店のサービスだ。工事終了後に報告書を出せ」

1ミリも誤差を許さない工事等何処にもない。しかもこんな難しい工事現場で誤差無し等とても無理な話だった。

「社長、それは絶対に無理です。誤差10cmでも難しいのですよ」

丸和の社員はそう言って必死に青田の言動を諌めるも、青田はそんな意見に耳を傾ける人物ではなかった。

「ダメだ。1ミリの誤差も許すな。それに工期は3日間で仕上げろ」

「そんな!3日なんて!」

すると優太が下げていた頭を上げ「わかりました」と一言。

「え?」

これにはさすがの圭一郎も驚いてしまった。こんな玉石だらけの山を1ミリも狂わせず、挙句の果てに3日で仕上げるなんて絶対に無理な話だった。しかし優太の表情は真剣そのもの。

「わかりました。1ミリたりとも狂わせません。工期も3日間で仕上げます」

そういうと優太は静かにその場から去って行った。その去りゆく優太の背中は、いつもより一回りも二回りも大きく見えた。






そしていよいよ工事が始まった。

地上に配置された、油圧ユニットのブオオオンという轟音。そこから立坑下のマシンまで何本もの油圧ホースがつながっている。推す力は20t。回して削る力は13t。これぞまさしくモンスターマシーンである。

今回マシンの操縦は吉村が行い、溶接等の手元は圭一郎が行う。

優太は立坑内で腕組みをしながら「川崎!鋼管降ろせ!」と指示。すると地上にいた川崎がクレーンを使って、第一本目の鋼管を吊り降ろしてきた。

長さ90cm、直径1メートルの黒い鋼管は、そのままマシンへとセットされ、溶接で固定される。圭一郎は溶接棒と面を手に持ち、そのまま鋼管の溶接を開始しだした。

バチバチと音を出す溶接の火花。重量のある鋼管は、やがてしっかりとマシンに固定された。


「いけ!」


優太がそういうと、マシンは油圧の力でゆっくりと発進口へと進んでいった。そしてブーンと言う音を出しながら緩やかに回転し始めると、そのまま発進口をガリガリと削り始めた。

玉石まみれの土壌で鋼管が左右にぶれるも、優太はその刃先をじっと見つめていた。

「優太さん、水いりますか?」吉村がそう言うと優太は「いらん!そのまま掘れ!」と一言

「はい!」

「吉村!2ミリ右にずれた!左回転」

「はい!」

すると今度はマシンが左に回転しはじめた。ゴリゴリと左に回転させると、ある程度左方向に修正させる事が出来るのである。

「左に3ミリずれた!吉村!右回転!」

「はい!」

ベビーモールは石を切断する事は出来ない。進路を妨げる石を、鋼管内の空洞に取り込んでいくしかない。



そして85cm掘り進めると、第1鋼管はマシンから取り外される。

優太は鋼管内を懐中電灯で照らし、先端の土砂の様子を確認すると「よし!」と一言いい、そして圭一郎に「野島!勾配いくつだ?」と聞いてきた。

「下りの2パー」

「OK!川崎!鋼管下せ!」

すると次の第2鋼管がマシンの前へ吊り下りてきた。

ベビーモール工法はロケット鉛筆のように鋼管を継ぎ足し継ぎ足ししていく工法である。なので先に進んだ第1鋼管とマシン本体の間に第2鋼管を溶接でつなぎ合わせ、再び掘り進んでいくのである。


第2鋼管を溶接し終えると、再びマシンが回りだす。ゴリゴリと玉石を取り込む音。時に石にはじかれ、通りがずれてしまう事もある。そんな時は優太が吉村に指示を出す。

「吉村!右回転!」

「吉村!左回転!」

優太は何ミリずれたかを、何も見ずに目視で確認する事ができた。そして第3、第4と、鋼管が下されていき、どんどんと溶接でつながれていく。

そして第6鋼管目になると、土圧の力でマシンが回らなくなってきた。すると優太は「川崎!水送れ!」と叫んだ。

「はい!」

川崎は、今度はグラウトポンプの電源をONにした。すると地上のポンプからマシンへとどんどん水が送水される。水が送られると先端の土砂が柔らかくなる為、少しだけ回りがよくなるのである。




第7鋼管、第8鋼管とマシンはさらに鋼管を推しつづけた。しかし、距離が長くなればなるほど土圧の抵抗を受ける。またしてもマシンは回らなくなってしまった。

「川崎!滑材送れ!」

「はい」

滑材とはローション状のような液体で、鋼管の滑りをよくする薬品の事である。滑材を投入されると、マシンは再びウォオンと回転し始めた。


しかし第10鋼管目。遂にマシンは停止してしまった。直径30cmの玉石だらけの土壌。13tの力で回転させても限界たるものがあった。

右に左にマシンを回そうと吉村がレバー操作するも、うんともすんとも言わなくなってしまった。

「優太さん!回りません!」

すると優太は「川崎!ユニット止めろ!」と指示を出した。


ブーン・・・


まるでブレーカーが落ちたように停止したマシン。優太は遂にマシンの電源を落としてしまった。