7、心の変化(4)
5月に入った土曜日、世間はゴールデンウィークの真っ最中。
恵と陽一の二人は横浜で映画をみていた。
3D映画の迫力に圧倒された二人は、興奮冷めやらぬままマクドナルドに入った。
「すごい映画だったね」
「そうだな。でもちょっと目が疲れたよ」陽一はそう言うと、ハンバーガーを頬張った。
「ねえ陽一、陽一ってファーストフード好きだね」
「そうかなあ・・・まあファーストフードが一番手っ取り早いよな」
「それで晩御飯も外食でしょ?」
「まあ、そうだなあ・・・普段は練習で疲れて帰るから、自炊する気持ちになれないよ」
身寄りの無い陽一にとって、家庭の味なんて縁遠かった。
恵がいてくれる為、最近は週末こそ恵の手料理を食べていたが、はっきり言って陽一の食生活は無茶苦茶だった。
「私ね、陽一の事が心配」
「何でだよ?」
「外食ばかりじゃ体に悪いよ。それにスポーツ選手でしょ?」
「死にゃしないよ」
そういうと陽一は、ハンバーガーを食べた。
そして二人は、横須賀線の下り線に乗って、帰っていた。
恵は、電車の外に写る薄暗くなった横浜の景色を見ながら、ずっと考えていた。
陽一は一人ぼっち・・・。
しかも毎日物凄い練習をしてる。
とても自炊なんてできない。
私、陽一の面倒をみてあげたい・・・。
そして恵は思い立ったように「ねえ陽一、これから陽一の家に行ってもいいかな?」と言った。
「いいけど、今日は料理の勉強休みだろ?」
「今日は陽一の為に晩御飯作るの」恵はそう言って、微笑んだ。
そして二人は、陽一の家の近くのスーパーマーケットで買い物をした。
恵は今日は陽一の為に、得意料理の筑前煮を作ろうと思った。
椎茸をじーっと見つめ続ける恵に、陽一は「全部同じだろ?」と面倒くさそうに言った。
すると恵は「違うよ。よくよく選ばなくっちゃ」と言った。
そんな真剣な表情で具材を選ぶ恵の姿を見て、「恵はこんな気持ちで、俺の野球道具選びに付き合っていたんだろうな」と思い、思わず笑ってしまった。
陽一の家に帰ると、恵は黙々と料理を作りだした。
そして味見をすると「うん」と言って微笑んだ。
そんな恵を見て、陽一は「何か手伝おうか?」と言い出した。
「ありがとう。でも大丈夫。テレビでも見ててよ」
恵はそう言うと、ひたすた黙々と料理を作り続けた。
本日のレシピは・・・。
『鯖の味噌煮』
『茶碗蒸し』
『筑前煮』
『筍ごはん』
『なめこ汁』
陽一の健康を考えた、恵のメニューだった。
そして二人は仲良く晩御飯を食べた。
「陽一、美味しい?」
「むちゃくちゃ美味い・・・筑前煮も筍も美味い・・・・」
陽一の美味しそうに食べる顔を見て、恵は嬉しい気持ちになった。
陽一のお母さん。
私、陽一の事が大好きです。
このまま陽一のお嫁さんになってみたい。
賛成してくれますか?
そんな事を考えていたら、思わずニヤけてしまった。
「恵、何だよ?ニヤニヤしてさあ」
「えっ?ううん、なんでもない」
次の日の日曜日、恵は母親と一緒にショッピングセンターへ買い物に出掛けた。
洋服をいろいろと見ていたら、あっという間に時間が経ってしまう。
そして二人は、フードコーナーで『たこ焼き』を食べた。
「美味しい」恵は満足気に『たこやき』を食べていると、母親は「恵、卒業後の進路は決まった?」と聞いてきた。
「方向は決まっているんだけど、どうすればいいかわからないんだ・・・」
「恵は何がしたいの?」
「料理関係の仕事がしたい」
「お料理?」
「うん。私料理が自分に向いていると思っているんだ」
「レストランにでも働くつもり?」
「それじゃあ、今と一緒じゃん。具体的には何も決めてないよ」
そう言うと恵は、アイスティーに口をつけた。
「陽一君はどうするの?プロに行くの?」
「何球団かは声が掛かっているらしいけど、なんか煮え切らないみたい」
「どうして?」
「陽一の考えている事はよくわからない。宇宙人だから・・・」
「恵はどう思っているの?陽一君にプロに行って欲しいの?」
「う~ん・・・何でもいい。そばにいてくれたらそれでいいよ」
「でもプロ野球選手になったら、そばにいてくれないわよ」
恵は、その事はずっと考えていたが、答えが出ないでいた。
どうしても現実的に考える事が出来なかったのだ。
そして恵は思いついたように「ねえお母さん、陽一がもし北海道とか福岡のチームに行ったら、ついていってもいい?」と母親に聞いてみた。
そんな恵の相談に、母親はしばらく考えた。
そして「私はいいと思う。でもお父さんにもちゃんと相談しなさいね」と言った。
ある日の夕暮れ時、真と理子が学校の為、茜は一人で部屋にいた。
そして目の前に妊娠判定機を置いて、じっと見つめていた。
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