8、料理甲子園(1)
港南学院高校内に衝撃が走った。
それは歴史を変える大きな出来事だった。
掲示板に掲載された新聞部発行の『よこすかWEEKLY』の名物コーナーである、生徒部門別ランキングの『彼女にしたい女部門』で長年首位を守っていた由香子が遂に首位から2位へと陥落してしまったのだ。
由香子に替わって首位に立ったのは・・・。
なんと通信教育課程の大島茜!。
そう、茜が由香子を破ったのだ。
たまに学校にやって来て、通信制の授業を受ける茜は男子生徒の憧れだったのだ。
デジタルパーマの茶髪の髪に、ローライズのジーンズ、そして元名門女子高出身。
男子にとって、こんなミステリアスな存在はいなかった。
その日の2時間目の休み時間、由香子は怒り心頭だった。
「由香子、別にいいじゃん」そんな由香子を見て、恵は思わず笑ってしまった。
しかし由香子は何もコメントをせず、表情も消えうせていた。
それはまるで、スターの座を若手に奪われた女優のようだった。
そして「恵、私が首位の座を明け渡したのがそんなに面白いの?」と言い出した。
「違う!違うよ由香子!」
「私、茜って女嫌い!」
「由香子、私なんてランキングに入った事すらないよ」
「そんなのあたりまえじゃん」とキッパリそういうと、由香子は車椅子で教室から廊下へ出て行ってしまった。
「可愛くないなあ・・・」
ちなみに『彼氏にしたい男』部門では、学校で一番のイケメンで甲子園のスター陽一がトップかと思いきや、一位は野球部の新エース清志朗だった。
なんと陽一は昨年の秋にランキングから外れてしまったのだ。
恵以外の女を相手にしないので、女生徒の心が自然と離れていってしまったのである。
そんなランキング外のラブラブな陽一と恵は、2時間目の休み時間の終わる間際に会っていた。
「陽一、お弁当だよ」
恵は、笑顔で陽一にお弁当を二つ渡した。
「あっ・・・ありがとう。でもなんで二つ?」
「小さなお弁当箱しかなかったの。足らないでしょ?沢山食べるでしょ?」
「あっ・・・ありがとう」
「これからは毎日作る。野球選手は、バランスの良い栄養を取らなければダメってスポーツ雑誌に書いてた」
「でも恵、それじゃあ毎朝大変だろ?」
「どうせ私と淳の分も作るの。それに料理は全然苦にならないから平気だよ」
そう言うと恵はニッコリと笑った。
「ありがとう。なんか悪いな」
昼休み、陽一は恥ずかしいので、部室で一人恵お手製のお弁当を食べていた。
すると真が、昼寝をしにやってきた。
「おっ、陽一、弁当かよ?」
「ああ」
「お前いいなあ。茜なんてこんな事絶対やらねえぞ。お前、野球選手見る目もあるけど、女見る目もあるよな」
「そうかな?」
「ああ、山野はお前と出会うまでは、パッとしない女だったんだよ。そのパッとしない地味な山野をお前は見抜いたんだもんなあ。今やお前の彼女として、少し脚光浴びてきてるしな・・・」
恵はランキングには入らなくとも、最初は野球部の取材にやってくる報道陣が、グラウンドには姿を見せない陽一の謎の彼女として、なんとなく好感を持っていた。
そのうち全校生徒が、なんとなく恵に好感を持つようになっていった。
陽一はふと箸を止めた。
「あのさあ・・・恵ってなんで俺にここまでしてくれるんだろう?」
「はっ?」
「なんで俺みたいな奴にこんなにしてくれるのかなあ」
「そりゃあ愛だろ」
「俺さあ、恵にやってもらってばかりなんだよ。だから俺から何かをしてあげたいんだ」
「プレゼントでもしろや」
「そんなんじゃない。もっと夢のような物を与えたいんだ」
陽一は、昼食を食べ終えると、校内をなんとなくブラブラと歩いていた。
すると取材に来ていたテレビ局の車が止まっているのを見つけた。
そしてそのテレビ局のワンボックスカーの運転席に、一枚のチラシが入っているのが目に入った。
『女子高生料理甲子園 出場選手募集 新東京テレビ主催』
「これだ!」陽一は思わず大声でそう言うと、テレビ局の人間に「すみません。このチラシ下さい」と言った。
「恵、できちゃった・・・」
「ええ!!!!」
突然の茜の言葉に、恵は驚いてしまった。
バイト先の休憩室の中は、いつもと違って重苦しい雰囲気となった。
「茜、どうするの?」
「おろす」
「遠山君知ってるの?」
「何も言ってないよ」
「どうして言わないの?」
「真、今大切な時期じゃん。そんな事知ったら野球に影響する」
「でも・・・ちゃんと言ったほうがいいよ。二人の間にできたんでしょ?」
「言わない方がいい事だって世の中にはあると思う。黙って中絶する。そしてこの事は、真には一生言わない」
「でも・・・」
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