フォーエバー・フレンズ -275ページ目

7、心の変化(2)

試合後、文麿は気が重そうな表情で、電車に乗って帰っていた。

4試合で、いまだにノーヒット。

今までは、チームが調子の悪い時こそ、起死回生の1打を放っていたスランプ知らずの文麿に、絶不調の波が押し寄せていた。

寂しげに、窓の外の風景を見る文麿に、一人の女性が声を掛けてきた。

「一ノ瀬先輩」

文麿が振り返ると、弥生が笑って立っていた。

「あっ!ケツデ・・・」

「ケツデカって言わないで下さいね。結構気にしてますから」

「あっ・・・ああ・・・すまねえ」

「元気ない顔で、どうしたんですか?」

「タメ口でいいよ。それに文麿でいいよ・・・」文麿は寂しげにそう言った。

「じゃあ、遠慮なく。文麿」

あまりにも遠慮のない話し方に、文麿は少し驚いた。

「少しぐらい気を使えよ」

「どっちなんですか?」

「もういいよ」

文麿は黙って窓の外の風景を見つめていた。

「文麿さん、懐でボールを打ててないですよ」

「あん?」

「体が開くのが早いから、ファールしてカウントを悪くするんです」

「偉そうな事言うな。このケツデカ」

「ケツデカって言わないで下さい」

そういうと弥生は文麿の体をバシッと叩いた。

「いてえ!」

男に叩かれたような痛みだった。



弥生はとても熱心にマネージャーの仕事をこなしていた。

練習後の後片付けやグラウンド整備も行い、バッティングマシーンの手入れまでもしっかりとやった。

勿論タオルを配ったり、洗濯をする等の女性的な仕事も行う為、おかげで司は偵察やデーターの取りまとめに専念する事ができた。

そして明るく元気のよい『ケツデカ弥生』は、いつのまにか野球部の人気者になっていった。



練習試合第5戦。

対戦相手は、東京の東洋工業高校だった。

今回の相手も選抜大会出場の強豪である。



この日も、淳紀のリードに引っ張られた、清志朗のピッチングは冴え渡った。

陽一も、真も3安打を放ち、好調ぶりを見せた。

修二も2安打を放ち、守備でもファインプレーを見せた。

そして7―1で勝利した。

清志朗は2試合連続の完投勝利だった。

港南学院らしさが戻ってきた。

しかし・・・文麿は今日もノーヒットだった。

全員が帰っても、文麿は黙々と居残りでティーバッティング練習を行っていた。


するとジャージ姿の弥生がやってきた。

「文麿さん、懐で打たなきゃだめだって」

「うるせえ」

文麿はただでさえ人の意見を聞かない。

そんな文麿が、マネージャーの弥生の意見なんて聞くはずがなかった。

すると弥生は「頑固だなあ。ちょっと貸して」と言って、文麿から無理矢理バットを取り上げた。

「なんだよ、邪魔すんなよ」

すると、弥生はバッティングティーにボールを置いて、カーンとボールを打った。

とても綺麗な弥生のスイングに、文麿は驚いてしまった。

そして弥生はボールを打ちながら「こうだよ。手前でボールをとらえる感じ。そして懐で手首を返す感覚」と熱心に文麿に指導した。



居残り練習を終えると、弥生は夕暮れのグラウンドの側のベンチに座っていた。

文麿が、自販機でジュースを買ってくると「あいよ」と言って、ジュースを弥生に投げ渡した。

「ありがとう」

文麿は弥生の横に座わると、プシュっと缶ジュースの蓋を開けて、ゴクゴクと飲みだした。

そして「ふう・・・」と言うと「弥生、お前野球やってたのか?」と弥生に聞いた。

「ソフトボールやってたんだ。全国大会準優勝だよ」と言って弥生は笑った。

「そうだったのか・・・なんで辞めたんだよ?」

すると弥生はジャージの裾をめくり、足首の手術の跡を文麿に見せた。

「どうしたんだよ、それ?」

「アキレス腱切っちゃったんだ」と言って弥生は笑った。

「そうだったのか・・・」

「本当はオリンピックに出場したかった・・・。でもこんな体じゃ仕方ないよね。だからせめてスポーツインストラクターになりたくて・・・」

「なれるよ」

「わかんないよ」

二人は沈み行く夕日を見つめた。

「なあ弥生、俺そんなに体が開いているのか?」

文麿は初めて弥生のアドバイスを聞こうとした。

「うん。去年テレビで見た文麿さんとは違う。長打を狙おうとしすぎるから、体が開くんだと思う」

「そうかなあ・・・」

「文麿さんは、センター方向にライナー性の球がでると、グッド」そういうと、弥生は文麿に白い歯を見せて微笑んだ。

文麿はそんな弥生の笑顔に、少しドキッとしてしまった。


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